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ユーザーが採掘し続けることで、ビットコインは価値を持つーー仮想通貨から紐解く、ブロックチェーンの仕組み
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(左から)上野広伸氏、伊藤佑介氏、齋藤精一、落合陽一、黒田有彩

「ブロックチェーンとエンターテイメントの可能性」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、上野広伸氏(double jump.tokyo株式会社 代表取締役)と、伊藤佑介氏(博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員)だ。

全3回にわたってお届けする第2弾記事の前半では、「トークンエコノミー」をキーワードに展開されたトークの様子をお伝えする。仮想通貨を軸に生成されたコミュニティを「トークンエコノミー」と呼んでいるが、経済価値以外のトークンを軸に発生するコミュニティもあるのだと、伊藤氏は言う。さらに落合と齋藤からは、ブロックチェーンを活用した新たな取り組みの内容も明かされた。

後半は、上野氏が構想する「俺嫁プロジェクト」をもとに、ブロックチェーンゲームに注目した背景が語られた。「ブロックチェーンゲームは、新しい概念の遊びだ」と話す上野氏に対して、齋藤は「強固なコミュニティ生成ができるブロックチェーンは、熱狂的なファンが集うゲームと相性がいい」と、その思想に共感した。

ブロックチェーンによって生まれる「新時代のコミュニティ」の在り方を、伊藤氏と上野氏の話から、紐解いていく。

ビットコイン保有者たちは、運命共同体。価値で繋がるコミュニティ「トークンエコノミー」

黒田:次のキーワードは「トークンエコノミー」です。伊藤さん、ご解説をお願いします。

伊藤:「トークンエコノミー」とは、貨幣に変わる価値となる「トークン」で構築される経済圏のことです。

インターネットの登場以降、個人間での情報伝達が可能となりました。さらに個人のWebサイトや掲示板ができたことで、インターネット上には「共通の趣味を持った人たちの情報共有の場」として、さまざまなコミュニティが誕生しましたよね。そして今、「ブロックチェーン技術がさらに発展すれば、情報だけではなく”価値”を共有するコミュニティが生成できるのではないか」と言われているんですよ。それが「トークンエコノミー」の概念です。

たとえば、ビットコインを利用する人たちはみんなでその価値を高めあったり、相場が下落した時には一緒にリスクを負ったりする運命共同体のようなものです。このように、トークンによって生成されたコミュニティは「トークンコミュニティ」と呼ばれています。

黒田:経済価値以外の価値を持つトークンもあるのでしょうか?

伊藤:avexさんが昨年設立した子会社エンタメコインさんは、アーティストのファンの「応援量」をトークンにして、ファン同士のコミュニティを作ろうとしていますね。同じように、経済価値以外の価値があるトークンを作ろうとしている企業さんは、いくつかありますよ。

黒田:落合さん、齋藤さんはどんな時にブロックチェーンを使われているんですか?

落合:複数人で一つのデータベースを構築する際に、ブロックチェーンを活用することが多いですね。うちの研究員がブロックチェーンを使って三次元地図を作ろうとしていて、僕も一緒に論文を書きました。色々な人が360度カメラで撮影した画像を使って、三次元の地図を作るんです。ブロックチェーン上に画像データがあるので、同じ場所で撮影された写真があれば、自動的に最新の写真に更新されるんですよね。

齋藤:僕もまだ実現させられていないのですが、ブロックチェーンを使って「3D都市データ」を作りたいと考えています。さまざまな人が街中で撮影した写真から取得したGPSのタグを、ブロックチェーンで管理して、都市を3Dで再現するんです。ドローン撮影をする人、360度カメラで撮影する人、3Dスキャンをする人など色々な人がいますが、彼らがデータを提供しあって一つの価値を創造していくイメージですね。さらに、そのデータを誰かが購入すれば、新たな経済圏も生まれますよね。

落合:ブロックチェーンで写真を管理する場合、誰かが既存の写真をスクリーンショットしてアップしたとしても、ブロックチェーン上にデータがないから偽物だとすぐわかる。

ブロックチェーンの仕組みは、経済合理性が高い。ユーザーが能動的に動き続けられる理由

伊藤:昔あったファイル共有ソフト「Winny」をご存知ですか?

落合:ありましたね。

伊藤:Winnyはピアツーピア通信を使うことで、中央サーバーを介さずに個人間でファイル共有ができるものでした。つまり、ブロックチェーン登場以前にも、中央サーバーなしでのファイル共有は実現できていたんですよね。

では、ブロックチェーンはWinnyと何が違うのか。それは「ユーザーにとって経済合理性がある」点です。Winnyを利用するユーザーの多くは自分の欲しいファイルをダウンロードしたら、ソフトを終了させていました。Winnyはソフトを起動している人たちが媒介となってファイルが共有されるため、ネットワークとしてはソフトの起動数が多い方がいいのですが、ユーザーにとってはずっと起動しているとCPUも食いますし、欲しいものが手に入れば起動し続ける理由はありません。しかし、ブロックチェーンを使った仮想通貨の場合、「採掘」を意味する「マイニング」と呼ばれるプロセスを踏むことで、新しい仮想通貨を得ることができるんです。だから、プロセスを踏み続けた方がお得なんですよね。ブロックチェーンは、ピアツーピア通信とは違って、ユーザーが自発的にアクションを起こし続ける仕組みになっているんです。

落合:昔は「どこのコンピューターにどのファイルがあるか」といった情報を、ピアツーピア通信で調べていたのですが、その情報を持っている人たちへのインセンティブは結構低かったんですよね。でも今は、マイニングを行うことでインセンティブが発生する。だから、積極的にマイニングをしている人たちはそこでお金を稼ぐことができているんですよ。

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齋藤:黒田さんは、ピアツーピア通信を使ったことはありますか?

黒田:あるんでしょうけれども、いまいち分かっていないかもしれません…。

齋藤:たとえば、黒田さんが作曲した曲があって、僕はその曲を聞きたいと思っているとします。僕と黒田さんのパソコンがピアツーピア通信で繋がっている場合、黒田さんのパソコンがオンライン状態にあれば、共有フォルダに曲が格納されて、僕はそれをダウンロードすることができるんです。その時、黒田さんも僕のパソコンに入っている別の曲をダウンロードできるんですよ。そして僕は欲しいものが手に入ったので、インターネット接続を切ります。オンライン状態だとパソコンの動きが遅くなるので。そこに対して、オンライン状態でマイニングをし続けることで儲かる仮想通貨が登場したんです、だから、サーバーを複数持つ人が増えたんですよね。

上野:中国の山奥にある農場に、サーバーマシーンを置いている人もいますよね(笑)。

黒田:マイニングをするのには、すごく電気代がかかると聞いたことがありますが、それでもマイニングをする方が儲かるんですね。

伊藤:そうですね。

上野:マイニングによってユーザーが得るインセンティブって、サーバー運用費なんですよ。しかし、一万台のサーバーを動かしていたら全てのサーバー運用費が支払われるわけではないんです。ブロックチェーンのサーバー運用費は、宝くじ方式で支払われるんですよ。世界中で動いている何万台ものサーバーのうち、どれか一つのサーバーを運用している人に対して運用費が発生する。多くのサーバーを動かしていた方が当選確率が高いんです。だから一万台ものサーバーが同時に動いているんですよね。それだけのサーバーが動いていれば、同時に止まることはほぼありません。だからデータが半永続的に残っていくんです。

落合:金を掘ることも、ある意味宝くじ型じゃないですか。掘る場所が多いほど、掘り当てる確率が高くなる。

黒田:なるほど。皆さんのおかげで、だんだん理解してきました。

獲得アイテムが現実世界の”所有物”になる。ブロックチェーンゲームで切り拓くゲーム業界の未来

黒田:それでは次のキーワードへ移りたいと思います。「Dapps」です。

伊藤:Dappsは、Decentralized Application(ディセントラライズドアプリケーションズ)の略語です。「ディセントラライズ」は「非中央集権的」を意味していますので、先ほどお話ししたように「中央的な管理者がいなくても動くアプリケーション」を指す言葉ですね。

従来型のアプリは中央集権的な仕組みで成り立っています。たとえばゲームアプリの場合、開発会社のサーバー上に、ゲームの仕組みがあって、ユーザーはそこにアクセスしてゲームをプレイしています。つまり、ゲーム内で獲得したアイテムは、実際には開発会社のサーバー上にあるんです。しかしDappsのゲームは、文字通りアイテムを所有できるんです。だから、今後は運営元の違うゲーム同士を跨いでアイテムを使うこともできるようになるかもしれません。

黒田:ドラクエで手に入れた剣を、違うゲームで使えるようになるかもしれないんですね。

伊藤:そうですね。ブロックチェーンの中に、アイテムの所有権が刻まれます。

黒田:それは面白いですね。この内容については、この後上野さんに詳しくお伺いしたいと思います。

黒田:続いては、ブロックチェーンゲーム開発者である上野さんを深掘りするために、上野さんが大切にしていらっしゃる思想や信念などを伺いたいと思います。まずは「俺嫁プロジェクト」について教えていただけますか?

上野:僕は今独身なのですが、「リアルな嫁が見つからなかったらバーチャルな嫁でいいじゃん」と言って発足したのが「俺嫁プロジェクト」です。バーチャルな嫁を作るためにはAIやVRなどの技術が必要で、さらに「自分の嫁」であることを証明するためには、ブロックチェーン技術が必要だと、数年前から仲間内で話していたんです。もちろん”ネタ”ですが、発想自体は面白いと思っていて。ちょうど一昨年仮想通貨界隈がも盛り上がった時に、「まずはブロックチェーンを使ったゲームを作ってみよう」と言って、double jump.tokyoを設立したんですよ。だから、会社の最終ゴールは僕の嫁をバーチャル上に作ることなのかもしれません(笑)。

黒田:初音ミクさんとご結婚された方もいらっしゃいますよね。

上野:ブロックチェーンで客観的な証明を残すことって結構重要なことなんです。バーチャルの女性キャラクターってたくさんいるじゃないですか。だから、「○○は俺の嫁」と言っても、信憑性を担保できない。しかし客観的に管理されているブロックチェーン上に「自分の嫁は○○」と書き込まれたら、事実として証明されるんですよね。

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黒田:なぜ、ブロックチェーンゲームを軸にしたビジネスを始められたのですか?

上野:昔は「日本のゲーム会社はすごい」と言われていましたが、今は中国など海外でクオリティの高い大作ゲームを作っている企業も増えています。そんな中、正攻法でゲームを作ってもグローバルの舞台で戦えないので、新しい技術であるブロックチェーンを使って新しい遊びを作ろうと思ったんです。ブロックチェーンで今までのゲームにあった欠点をカバーすることよりも、全く新しい概念の遊びを提供することに面白みを感じています。

黒田:実際に、どのようなゲームを開発されているのでしょうか?

上野:昨年11月末に「My Crypto Heores」というゲームを出させていただきました。このゲームのコンセプトは「ゲームにかけた時間もお金も情熱も、あなたの資産となる世界」。ゲームにかけたお金や時間をデータとして記録することで、「プレイしたこと」が資産になるんです。そしてMy Crypto Heoresは、ビットコインに次いで世界第二の時価総額を持つ仮想通貨「イーサリアム」をベースにしたゲームです。ですから、キャラクターやアイテムの所有が明確になる。イーサリアムはERC721と呼ばれる規格のもと、トークンを発行しているので我々がゲームを作っただけで、イーサリアム・エコシステムが誕生したんです。ある意味、クローズドな世界ではあるものの、ゲーム以外の場所でトークンが使えるところが、従来型のゲームとは全く違う点ですね。おかげさまで、今はイーサリアムネットワークの中では、世界一のデイリーアクティブユーザーを誇っています。とはいえ、他のゲームに比べるとまだ少数なので、これから伸ばしていこうと思っています。

黒田: 齋藤さんと落合さんは、ブロックチェーンゲームをやられたことはありますか?

落合:友達が、豚を売り買いするゲームを作っていますね。

上野:くりぷ豚(トン)」ですね。

黒田:なんですかそれ。面白そう。

落合:取引するものがユーザーが所有欲求を感じる動物であることと、運営側が消せないものであることに意味があるのかなと思います。「いつか消えてしまう」と思うと、情熱が注げないから。しかし、データベースに「私が持っています」と書かれていることを「所有」と言っていいのかはわかりません。実際に手元にあるわけではないので。

齋藤: 僕はブロックチェーンゲームをプレイしたこもないですし、具体的なタイトル名を聞いても知らないものが多いですね。

ブロックチェーンは、強固なコミュニティを生成するものじゃないですか。ゲームも同様でにアンチがいたり、熱狂的なファンがいたりする。だから、ブロックチェーンを使ったゲームはいつかできるだろうと思っていましたが、いよいよ実装される時代になったんですね。

続く第3記事の前半では、「リアルとデジタルが融合する世界」をキーワードに、上野氏の思想を深掘りしていく。上野氏は「ARが日常的に使われるようになれば、ブロックチェーンの価値が上がる」と話し、近未来における価値観の変化を示唆した。

中盤は「ブロックチェーンのエンタメ業界への応用」をテーマにトークが展開。「支援でコミュニティを作る」ことを売りにして乱立するブロックチェーンビジネスに対し、落合からは「クラウドファンディングでも実現できるものが多い」と厳しい指摘が飛んだ。それに対し、上野氏はクラウドファンディングとブロックチェーンの大きな違いは「オープンエコシステムであること」だと話した。さらに齋藤は、自身が携わるスマートシティにもブロックチェーンが必要不可欠だと話し、新たな技術への期待を膨らませた。

後半は、業界の最前線に立つゲストから「ブロックチェーン業界に必要とされる人物像」が語られた。「オープンエコシステムを築くことができるプランナーが不在だ」と話す上野氏に対し、落合は「パブリックカンパニーの経営者がスキルマッチしているだろう」と意見した。

インターネットに次ぐ新技術として期待されるブロックチェーンは、世界をどう変えるのか。ゲスト、MCの議論から、その可能性を探っていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一の友達は”くりぷ豚”マニア!?ゲスト:伊藤佑介・上野広伸( ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性 2/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-2-19 18:00:00)

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ブロックチェーンの本質は、価値創造。世界を熱狂させる、ブロックチェーンの魅力
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(左から)上野広伸氏、伊藤佑介氏、齋藤精一、落合陽一、黒田有彩

「ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、上野広伸氏(double jump.tokyo株式会社 代表取締役)と、伊藤佑介氏(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)だ。

全3回にわたってお届けする第1弾記事の前半では、伊藤氏が「ブロックチェーンの歴史」を語った様子をお届けする。たった9枚の論文から生まれたブロックチェーンは、なぜ世界中で注目されるようになったのか。落合が「一つのツールとして捉えている」というブロックチェーンの歴史を探っていく。

後半は、「ビットコイン」をキーワードにトークが展開。ビットコインの仕組みを例に挙げながら、伊藤氏はブロックチェーン技術の特徴を解説した。さらに落合からは「ピアツーピア通信とブロックチェーンの違い」について質問が投げかけられ、議論が白熱した。

言葉だけが一人歩きし、実態の理解が進んでいないブロックチェーンについて、伊藤氏の話から理解を深めていく。

黒田有彩(以下、黒田):こんにちは。草野さんに代わって番組アシスタントを務めさせていただきます、黒田有彩です。そしてMCは、日本を代表するクリエイター集団、ライゾマティクス代表の齋藤精一さんと、メディアアーティストの落合陽一さんです。

今日は新年一発目の収録ですが、MCのお二人は、年末年始どのように過ごされたのですか?

落合陽一(以下、落合):年末は朝までテレビ番組に出演して、その後はラボで研究していましたね。

黒田:お疲れ様です。お正月とか関係ないんですね。

落合:お正月は研究どきなんですよ。周囲の音も静かだし、振動もないので。齋藤さんは?

齋藤精一(以下、齋藤):ライゾマティクスのメンバーが関わっている番組をチェックしたりしていましたね。そうしたら、落合君が出ていたりして(笑)。それを朝まで観て、普通のお正月を過ごしました。

黒田:落合さんはお餅を食べたりとかしていないんですか?

落合:正月の夜だけは、妻と一緒に家でご飯を食べましたよ。

齋藤:お子さんにお年玉をあげたりしたんですか?

落合:まだ貨幣のことは「音がなる金属」としてしか認識していないので、あげていないですね(笑)。

齋藤:最近は、お年玉も電子マネーであげる人がいるみたいですよ。

一同:えー(笑)!

たった9枚の論文から誕生した、ミステリアスなブロックチェーンの歴史

黒田:今回SENSORSが注目したテーマは「ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性」です。仮想通貨への応用のみならず、インターネットやAI開発と同じくらい、今後の発展が期待されるブロックチェーン。今回は、ブロックチェーンを活用して、エンターテインメントがどのように進化していくのかを深掘りしていきます。MCのお二人は、ブロックチェーンについてどのようなイメージを持たれていますか?

落合:「ブロックチェーンを使ったVR」についての論文を書いたりしていますが、僕はブロックチェーンは一つのツールとして捉えています。

黒田:既にブロックチェーンをツールとして使う機会は多いですか?

落合:ブロックチェーンを使ってデータベースを構築したりしていますね。

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黒田:齋藤さんはいかがですか?

齋藤:仕事上、ブロックチェーンの話が登場することは多いですが、やっぱりまだセキュリティ強化のために使われている機会が多い気がしますね。なので、今日のテーマである「ブロックチェーンとエンターテインメントの可能性」について、どんなお話が聞けるのか楽しみです。

落合:エンターテインメント業界って「あまり効率的じゃないな」と思う仕組みも多いので、そうした課題をブロックチェーンがどのように解決するのかは気になりますね。

黒田:それでは、本日のゲストをご紹介します。今回お越しいただいたのは、double jump.tokyo(ダブルジャンプトーキョー)株式会社 代表取締役の上野 広伸さんと、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブの伊藤 佑介さんです。

お二人の簡単なプロフィールをご紹介させていただきます。上野さんは、株式会社野村総合研究所にて金融システムの基盤構築に参画。その後株式会社モブキャストにてゲームサーバーの設計開発、スマートフォンゲームの開発基盤の構築を指揮されていました。そして現在は、ブロックチェーンゲーム開発を行うdouble jump.tokyo株式会社の代表取締役を務めていらっしゃいます。伊藤さんは、株式会社博報堂にてデジタルマーケティングを担当。2016年からは広告・マーケティング領域でブロックチェーン活用の研究に取り組まれており、去年の9月からは「HAKUHODO Blockchain Initiative」(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)という社内プロジェクトで活動されています。

伊藤佑介氏(以下、伊藤)、上野広伸氏(以下、上野):よろしくお願いします。

黒田:まずはブロックチェーンについての基本的な理解を深めておくために、伊藤さんからご解説していただきたいと思います。

伊藤:ブロックチェーンが誕生したきっかけは、2008年に謎の人物”サトシ・ナカモト氏”が書いた論文です。この論文には、大きく分けて二つのことが書いてありました。一つは皆さんご存知のデジタル通貨「ビットコイン」の話。もう一つが、ビットコインの流通を実現するための「ブロックチェーン技術」についてです。この二つの内容が、わずか9ページの論文に書かれていて、そこからブロックチェーンの歴史が始まっている。まるでSF映画のように謎めいていて、面白いですよね。

ブロックチェーン業界には、「仮想通貨派」と「ブロックチェーン派」といった二つの流派があります。仮想通貨派の人たちは「ブロックチェーンは仮想通貨にしか活用できない」と思っていて、ブロックチェーン派は「仮想通貨以外のものにも活用できる」と思っている。ブロックチェーン業界の歴史はまだ浅いですが、流派が分かれるほど、非常に盛り上がっているんですよね。

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黒田:齋藤さんも落合さんも、ブロックチェーン派ですよね。

落合、齋藤:そうですね。

伊藤:僕もブロックチェーン派ですが、時々仮想通貨派のセミナーに行くと、彼らの中でも思想の違いがあって面白いんです(笑)。

黒田:ブロックチェーンの技術自体は、2008年以前から存在していたのでしょうか?

伊藤:実はこの論文の中に、「ブロックチェーン」という言葉は書かれていないんです。論文を読んだ人たちが「ビットコインを実現するための技術」をブロックチェーンと呼ぶようになったんです。

「ビットコイン株式会社」は存在しない。自律分散型のブロックチェーンシステム

黒田:ここからは、ブロックチェーンを理解する上で知っておきたい3つのキーワード「ビットコイン」、「トークンエコノミー」、「Dapps」を、伊藤さんに解説いただきます。まず「ビットコイン」からお願いします。

伊藤:ビットコインは、ブロックチェーン技術によって誕生した、仮想通貨の一種です。その仕組みは、インターネットの仕組みと比較すると分かりやすいんですよね。インターネットは、各個人のデバイスから中央サーバーにアクセスする形で成り立つ仕組みなので、サーバーの管理者が必要不可欠です。そのため、それぞれのWebサービス毎に、管理者となる企業が存在していますよね。

しかしブロックチェーンは、管理者がいなくても成り立つ仕組みなんです。ブロックチェーンの技術は各個人のデバイス上で動いていて、データも分散しています。なので、企業が提供するサービスとしてビットコインがあるわけではありません。「ビットコイン株式会社」は存在しないんです。ビットコインは自律分散型で、色々な人が参加して作られているものなんですよね。「管理者がいなくても動くシステムができる」ことが、ブロックチェーンの面白いところでもあります。

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上野:僕は、インターネットとブロックチェーンは、近いものだとも思っています。たしかに各企業が運営するWebサービスによって、インターネットの概念が構築されていますが、どこか一つの会社が潰れたとしても、インターネットが消滅することはありません。インターネットもブロックチェーンも同様に「半永続的なもの」ではあるんです。

ただ、今までは一つのWebサービスは一つの会社しか運営できませんでしたが、ブロックチェーン技術を使えば、多数の人で運営できるようになるんですよね。だから、客観的にデータを扱うことができるようになるのだと思います。

落合:ちなみにピアツーピア通信とブロックチェーンの違いについては、どのようにお考えですか?

伊藤:ピアツーピア通信は、個々のデバイスが相互に接続することによって成り立つので、全員が同じデータを共有することができます。一方で、ブロックチェーンの場合、データを共有するのではなく、個々人がデータを保有できる。そこが、ピアツーピアとブロックチェーンの違いだと思います。

落合:ピアツーピア通信って、今はあまり使わないんですか?

齋藤:いや、使いますよね。

落合:ピアツーピア通信って、ビデオ会議やファイル共有の必要性が高くなった2000年代にに生まれたものですよね。相互に通信することで、それぞれが個別に保有しているデータベースを共有できるんです。ブロックチェーンの場合、一本の長いデータベースがあって、その保有権が個々にある。仕組みが似ているから、よく混同されやすいんですよ。

伊藤:インターネットの登場以降、個人間で簡単に情報伝達ができるようになりました。そしてブロックチェーンの登場によって、今度は「価値の流通」が手軽にできるようになると言われています。今は仮想通貨が注目されていますが、人の価値や感謝の価値といった、経済価値以外の価値を、誰もが自由にデジタル上でやりとりし、データとして保有できるようになると言われています。

たとえば、SNSサービスの「VALU」さんは、「個人の価値」を可視化し、流通させることに取り組んでいます。また不動産会社のLIFULLさんは、「不動産の価値」の流通に取り組んでいます。

このように、各業界でさまざまな取り組みがなされていますが、目的の多くは「データの保有」です。たとえば今、オンラインストレージサービスに保存されているデータは、ユーザーではなくサービスを提供する会社の管理下にありますよね。「その会社が大企業であれば、データが消滅することはない」と思う人が多いでしょうが、突然サービスが終了してしまったら、オンラインストレージサービス上にあるデータは消えてしまいます。しかし、ブロックチェーン技術を使ってデータを管理すれば、理論上は半永久的に残り続け、ユーザー自身がデータを保有できます。

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落合:誰しもが参照可能でオープンなデータベースということですよね。改ざんができないから、永続性が高い。

黒田:「公文書の書き換え問題は、ブロックチェーン技術で解決できる」といった意見もありますよね。

齋藤:コンテンツ課金のサービスだと、コンテンツの流通と共に著作権の所在が分からなくなってしまうことがあります。そうした課題を解決するために、今後はブロックチェーンを使ったコンテンツ管理が当たり前になっていくんじゃないですかね。

落合:コンテンツ保護のために、ブロックチェーンは有効ですよね。ダウンロード不可の画像でも、誰かがスクリーンショットを撮って流通する場合もありますし、コピーガードされた音楽も録音されてしまえば、簡単に流通してしまいます。ブロックチェーン上に暗号情報を載せてコンテンツを配信すれば、購入者のみに閲覧権限を付与することもできますし、そのコンテンツが「どこで」「誰に」使われたかが記録できます。中央サーバー不要でそれが実現できるサービスを作りたい企業が、ブロックチェーンに注目していることが多い気がします。

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齋藤:黒田さん、昔あった「ドングル」というものを知っていますか?

黒田:ドングル…?

落合:今もありますよね。

齋藤:ありますね。ソフトウェアの不正コピー防止に使われるハードウェアキーのことです。USBポートに挿すとライセンス認証されて、アプリが起動できるもの。昔は中央サーバーにデータがあったから、不正コピーを防ぐためにはドングルのような鍵が必要だったんです。しかし今や、インターネットは空気のような存在です。世界中のデバイス同士が繋がっていて、24時間オンラインであるからこそ、中央サーバーから情報を取りに行くのではなく、みんなで分散的に情報を管理していくべきだと思います。一人の人が情報を持つのではなく、「みんなで情報を持つ」というのが、ブロックチェーンの考え方ですね。

続く第2弾記事の前半では、「トークンエコノミー」をキーワードに展開されたトークの様子をお伝えする。主に仮想通貨領域で生まれる経済圏を指す「トークンエコノミー」だが、経済価値以外のトークンでも、コミュニティが発生しつつあるのだと伊藤氏は言う。さらに落合と齋藤からは、ブロックチェーンを活用した新たな取り組みの内容も明かされた。

後半は上野氏構想する「俺嫁プロジェクト」をもとに、ブロックチェーンゲーム会社設立の背景が語られた。「ブロックチェーンゲームは、新しい概念の遊びだ」と話す上野氏に対して、齋藤は「強固なコミュニティ生成ができるブロックチェーンは、熱狂的なファンが集うゲームと相性がいい」と、その思想に共感した。

ブロックチェーンによって生まれる「新時代のコミュニティ」の在り方を、伊藤氏と上野氏の話から、紐解いていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一がブロックチェーンをわかりやすく例えると!?ゲスト:伊藤佑介・上野広伸(ブロックチェーン 1/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-2-11 18:00:00)

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大阪万博は、"日本列島3.0"の始まりとなる。建築家 豊田啓介氏が志向する、2025年の都市づくり
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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする最終回となる本記事の前半では、豊田氏の目に映る「ライゾマティクス齋藤精一」の姿が明かされた。noiz同様にコンピューター×建築に取り組むライゾマティクスに対し、「競合でもあるが、共感できる部分が多い」と尊敬の念を示した。それに対し、齋藤も「日本の建築業界には、豊田さんのような人が必要不可欠だ」と返した。

中盤は、「2025年の東京」をテーマにトークが展開。大阪万博にも携わる豊田氏は「万博を、新しい取り組みの実験場にしたい」と話し、齋藤も「2025年に向けて、準備を進めたい」と明かした。落合も「大阪万博を機に、日本列島3,0にアップデートするべきだ」と意見し、日本の未来についての熱い議論が交わされた。

後半は、落合からの質問「旧態依然とした建築事務所からの風当たりは強くないのか?」に、豊田氏が回答。建築業界の中で先進的な取り組みを続ける豊田氏は、「デジタルとアナログを両方理解しているから、意見しやすい」のだと明かした。さらに、次世代の建築家の育成についても話が及び、司会の草野から「建築家の教育用ゲームがあってもいい」という意見も飛び出した。

建築、アートとそれぞれの業界で革命を起こしてきたMC陣と、コンピューテーションデザインを提唱し、建築業界に革命を起こす豊田氏。3名の議論から、今後の日本をより良くするヒントを探っていく。

「正直、ズルいと思うこともある」豊田啓介から見た、ライゾマティクス齋藤精一

草野絵美(以下、草野):続いては、落合さんからのキーワード「豊田さんから見たライゾマティクス齋藤さん」です。

落合陽一(以下、落合):齋藤さんは、フットワークが軽そうなイメージがあると思うのですが、それはメディア露出も多く、色々な取り組みをされているからだと思うんですよね。実際、豊田さんの目には齋藤さんがどのように映っているのでしょうか?

豊田啓介(以下、豊田):noizもライゾマティクスさんと同様、コンピューターを使った建築をしているので、タッグを組む時も、競合する時もあります。競合として見ると、ライゾマティクスさんはデジタル分野における実績もあるし仕事も速いので、正直「ズルい」と思うこともありますね。

齋藤精一(以下、齋藤):競合だと認識されていたんですね。

豊田:知らないところで競合と認識されていたりするんですよ。でも、仕事の速さやフィー体系に関して羨ましいと思っていますし、齋藤さんの考え方には共感できる所も多いんです。齋藤さんはアナログなアーキテクチャへの理解があったうえで、「建築」を再定義しているじゃないですか。そういった考え方は長期的にみると、長く残る建築物の創造につながるのだと思います。うちも建築とコンピューターの両方がわかっているけれど、コンピューター側からのアプローチが強いので、もう少し両面から見られるようになればいいのかなと思っています。

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齋藤:やっぱり、他の領域と掛け合わせていかななければ、世の中を変えるようなことはできないですよね。だから、豊田さんのように「コンピュテーショナルデザイン」を提唱する人は絶対に必要なんです。日本でそういったスタンスを取る人はあまりいないんじゃないかな。アカデミックに取り組んでいる方はいっぱいいますが、実装している人はほとんどいないと思います。

草野:お二人が共闘する時は、どんな風に仕事を分担しているんですか?

齋藤:僕は「表現」の部分を担うことが多いですね。一方でnoizさんは「空間性」を担っている。

豊田:施工方法によっても変わっていきますけどね。ライゾマティクスさんに影響されて、僕たちの考え方が変わったりもします。今度一緒に「ノイゾマ」というチームを組んで一緒に仕事をしてみたいです(笑)

落合:それ超良いじゃん(笑)。僕の会社もよく「ライゾマティクスさんと、どう違うんですか?」と聞かれます。実際には全く違っていて、うちはクライアントのやりたいことを忠実に実行する。一方で、ライゾマティクスさんは「何をやるか」からコンサルティングしている。だから、途中で当初の目的が変わった場合には「ライゾマティクスさんと組んだ方がいいかもしれないですね」と提案することもある。そのようにクライアントに最適なプランを考える人がおらず、デジタルに対する認識が低い会社は淘汰されていくと思います。

大阪万博は、実証実験の場として活用したい。豊田啓介氏に問う、「2025年の都市」

草野:続いてのキーワードに移りたいと思います。これはSENSORSスタッフが考えたものなのですが、「2025年の東京の都市」について。2025年は大阪万博が開催される年でもありますし、6年後に東京がどうなっているか、豊田さんの考えをお聞きしたいです。

豊田:バズワード的に「スマートシティ」が使われている中で、Googleのような企業が日本に存在しないことも事実です。だから、万博のような機会を使って新しいことを実装していくべきなんじゃないかなと思います。実際に大阪万博に関わっている中でそう感じるようになりました。やはりニーズがなければ、人びとがスマートシティへ関心を持つこともないですし、実装は難しい。だから「ここに行くには、色々なしがらみを外さないといけないよ」というきっかけを作らないといけないと感じています。

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落合:1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博を機に、新幹線や太陽の塔が出来て”日本列島2.0″が始まったわけですからね。ただ当時は、人口も増加していましたし、高度経済成長期でもありました。人口も減少して経済も停滞している今、”日本列島3.0″にアップデートするためには、コンピューターや文化やデザインといったソフト面で問題を解決してゆかなければいけないと思います。

齋藤:日本だからこそ実現できるスマートシティを披露する場所として、大阪万博は良い機会だと思います。テックがしっかりと実装された上で日本人が生活しやすい街はどんなものかが、明かされるといいですよね。

それを実現できるように、2025年に向けて動いていきたいと思っています。今の日本には、個人レベルで優秀な人は多いのですが、それらをつなぐ力がない。だから彼らの力が、社会に対して十分に活かされていないんですよね。だから、アリババなど海外のシステムの方が先に普及してしまいそうそうになっているんです。

でも、人口の少ない日本だからこそ取れる戦い方もある。個人の平均点はすごく高いと思うんですよね。電気業界やインフラ業界など、さまざまな業界が連携して何かが作れるようになったらすごくいい。落合君が言っていたように、1964年は高度経済成長期の中で東京オリンピックを開催したけれど、2020年は経済が低迷している中で開催する。だから、昔と同じことをしていてはダメなんです。ここで何か新しい価値を見出していかなければ、この先の日本はどうやって稼いでいくのだろうと思いますね。稼ぐ手段は色々あると思うのですが…。

豊田:新しいものを取り入れていかないと価値は生み出していけないのに、業界や企業が閉鎖的だとタガが外せないんですよね。たとえば、Googleが情報プラットフォームを構築したことで新しい価値が生まれましたよね。しかし情報の流通だけでは幸せになれないことがわかったので、Amazonのように物を情報として扱うプラットフォームができて、今度は、メルカリのように個人の所有物を情報として扱うプラットフォーマーも出てきている。つまり、インターネットの出現によって、モノの価値が可視化されるようになったんですよね。

しかし、ものづくりを行う企業が情報を扱う企業と連携するための共通プラットフォームを持っていない。だから宝の持ち腐れになっていることが多々あるんです。大阪万博は、そうした問題を解決する機会にもなると思っています。「Googleのように全ての情報を一極に集めることはできないけれど、日本風にオープンに情報を集めるとこんなことができますよ」と発表できればいいですね。

齋藤:「NECと三菱商事が共同で何かを開発しているか?」と考えても、そんなことしていないじゃないですか。そこってすごく大きな損失につながっている気がするんですよね。

落合:同感です。しのぎを削るならオープンに叩き合えばいいのに、テーブルの下で叩きあっている。それはあんまり良くないなと思います。僕の最近の趣味は、1970年〜1980年代までの日本のCMを観ることなのですが、当時のCMは超元気なんですよ(笑)。あの元気さはなんだったんだろうと考えていて。おそらく当時は、企業側が他人がどう思うかを考えずに「これでいいだろ」と思うものを作っていたのだと思います。マーケティングやコストを気にしていないというか…。

あの元気さは不思議ですが、発信する側の自信があるものじゃないと観ている人も面白くないと思います。今の時代の企業も、そうした考え方をもっと取り入れた方がいいのではないでしょうか。

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齋藤:2020年には、そうした社会実装ができるかなと思っていたのですが、明らかにできなさそうなんですよね

落合:間に合わなかったですね。

齋藤:間に合わなそうなので、2025年までに向けてやっていきたいですね。さらに関西からっていうのがいいかもしれない。

草野:前回のChapterでもお話があったように、業界によって考え方が違うとか、コンピューターと建築はもっとコラボするべきだとか、そういった点にも問題があるのかもしれないですね。

齋藤:僕はすごくアナログなところに問題があると思っています。Twitter上で喧嘩している人たちも、実際に会うと仲直りすることもよくありますから、業界を超えたリアルな交流がもっと増えればいいと思いますね。

豊田:僕は、土俵の外に出るよりも、自分が勝てるところにしっかりいようという意識が強いので、専門外の人たちと積極的に交流をすることができにくい状況にあるのかもしれないです。

草野:実現していないけど、定期的にアイディアとして出る「空飛ぶ車」などを実現する社会にもなってきているんですか?

齋藤:そういったものも、万博に向けて実験していきたいですよね。

豊田:実生活でいきなりやるのは難しいけれど、万博という実験イベントだったらできるかもしれません。都市や社会基盤領域でも同じことが言えますよね。都市という基盤がないと実装・実験できないことって世の中には腐るほどあるんです。都市を活用した実験や実装の良い機会として万博があるので、パブリオンとしての機能も大事ですが、実証実験の場としてもうまく活用していきたいですよね。

落合:ヘリ移動の方が絶対効率良いはずなのに、それをみんながやらないからコストが下がらないんですよ。海外では、当たり前のようにヘリ移動する社長もいますからね。

齋藤:この前、投資家の千葉功太郎さんがホンダのビジネスジェットを買っていましたね。

落合:あれは買いますよね。約5億8000万円とかそんなに変な値段じゃないじゃないですか。それくらいだったら買えそうな社長とか多そうですけどね。僕は、飛行機乗り遅れることがめちゃくちゃ多いので、その時間ロスを考えたら専用機を買った方が安いかもしれない。

建築系VTuberの自由な発想が、業界を変える?次世代の建築業界に必要なこと

草野:最後に、落合さんからいただいたキーワード「三角定規で殴られると痛いか?」について。これはどういった意味でしょうか?

落合:「旧態依然とした建築事務所とかが殴ってきたりしないんですか?」という意味です。

豊田:殴られないにしても、フレンドリーになれないことは多いかもしれないですね。

落合:僕や齋藤さんに「メディアアートって言ってるけれど、全然アートじゃない」とプンプン怒っている人もいたりするので。

齋藤:今は少なくなったけれど、5年前は「メディアアート」と言うだけで敵視されることもありましたからね。

落合:「それは違う」とか言うのも、Twitter上だけにしてくれとか思ったりしますけどね。今は良くなってきたけれど、5年くらい殴られ続けてきたので。

豊田:旧来の建築家みたいな人が、頼んでもないのに急に目の前に現れて、仁王立ちしながら「お前がそう言うんだったら、俺を納得させてから目の前を通りすぎろ」みたいなことは時々ありましたね(笑)

落合:やべえ(笑)

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齋藤:僕は、逆に建築じゃないところから建築にアプローチしてきているから、そういったハレーションみたいなものはあまりないかもしれないですね。言うほど横のつながりもないですし。どちらかというと「次にこういったことをやろうとしているんですよ」と、対等に話すことが多いかもしれません。

豊田:僕の場合は、コロンビア大学の前に安藤事務所という「20世紀建築の大御所」みたいなところにいたので、立場上言われにくいというのはあると思います。「アナログもデジタルも、どっちもやっていた」という実績がある上で、コンピューテーションデザインを提唱しているので、説得力はあると思います。

豊田:この前建築系VTuberの人が建築コンテストみたいなものを自主的に開催していたのですが、すごく面白かったんですよ。「建築から重力をなくしたら」など、柔軟な発想の企画がたくさん挙がっていました。そうした新しい発想を持つ人たちが、これからどんどん活躍していくんだろうなとも思います。実際にものをつくらなければいけなくなった時のシミュレーションは、彼らのような人たちの力が必要です。そういう人たちが勝手に育ってくれているのは、いいですよね。

落合:マインクラフトをやっていた子供も、急にものを作れるつくれるようになったりしますからね。

草野:もしかしたら、建築家専用のゲームがあると面白いかもしれないですね。

齋藤:教育用の?

草野:そうです。その中では、現実世界の概念を超えた設計をすることができる。大人用のマインクラフトみたいなものがあったら面白いと思います。

日本は高度成長期において、ものづくりを通して大きく飛躍した。しかしそれはもう過去の話。デジタル技術が普及しきった今の時代、デジタルとアナログの融合が各業界で求められている。「AI」や「スマートシティ」といったバズワードだけが一人歩きしている中で、実装に向けて具体的に動いている人や企業は、どれだけいるのだろう。

停滞している日本を再び活性化させるために必要なこと。それは、自分の専門分野から一歩外に目を向け、視野を広げることだ。「コンピューティングデザイン」を武器に、建築業界の未来を切り拓く豊田氏のように、時代を読み、行動を起こすことが重要なのだ。

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(SENSORS|落合陽一はエヴァンゲリオン好き!?ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 3/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-2-6 18:00:00)

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コンピューター技術は、「自分のタガを外す」もの。建築家 豊田啓介が目指す、次世代の建築家
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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする第2弾記事の前半では、豊田氏の「自分のタガを外す方法」が語られたセクションをお届けする。安藤忠雄事務所を経て、コロンビア大学でコンピューター技術を学んだ豊田氏。「自分を外の世界に連れ出したかった」と当時の想いを明かした。

後半は、齋藤が提示したキーワード「建築家というビジネス」をもとにトークが展開。豊田氏は「新しい領域に踏み込む人がいない」建築業界をアップデートしたいと語り、齋藤は「建築家は設計図を書くこと以外でもっと稼げる」と示唆した。さらに適切な賃金が支払われない業界の問題に対して、落合は「業界全体でベースを上げていくべきだ」と指摘した。

閉鎖的な建築業界で、先進的な取り組みを行う豊田氏の思想から、社会実装型の建築を実現するためのヒントを探っていく。

コンピューター技術を学びに渡米したのは、「自分のタガを外す」ため

草野絵美(以下、草野):それでは、次のキーワードにいきたいと思います。「自分のタガを外す方法」です。

豊田啓介(以下、豊田):僕は最初”The20世紀”的なモダン建築ばかりを手がけてきて、それが身体に染み付いていたので、新しい視点を持ちにくかったんです。そこから抜け出すために役立ったのが、コンピューター技術でした。自分を外の世界に連れていくために、非常に強力なツールなんですよ。これは企業にも言えることで、新しい技術を習得せずに昭和の成功体験を引きずっている会社も多い。タガを外すことって、自分の力だけでは難しいんです。ですから「新しい技術を使っていたらいつのまにか自分のタガが外れていた」という状況を、自らつくりだそうとしました。

草野:「新技術」としてコンピューター技術を選ばれたのはなぜでしょう?

豊田:もともと、人間の力だけではつくれないものに興味があったんです。それをメタ的に知ることができるものを探した末に行き着いたのが、コンピューター技術でした。

齋藤精一(以下、齋藤):そうした経緯で、コロンビア大学に来ていたんですね。

豊田:コンピューターの系譜をしっかり学びたかったんです。

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齋藤:僕も、同様の経緯でコロンビア大学に行ったんですよ。コンピューター技術を基礎から学ばないと、設計ができないと思って。あそこは、同じような想いで学びに来る人が多いですよね。

豊田:コロンビア大学ではそれまで知らなかった、既成概念に捉われない建築ばかりを学ぶことになったのですが、最初は「こいつら何を言っているんだ?そんなことできるわけないだろ」と思っていましたね(笑)。でも、自分のタガを外して議論できるようになってくると、それまで見えてこなかった新しい可能性に目を向けられるようになりました。アメリカの教育を受けると、「これまでつくったことのないものをつくる為にどうすればいいのか」と考えられるようになる。そうした視点を持てるようになったのは、コロンビア大学に行ったおかげです。「99%の人が反対していても、1%でも良いと言っている人がいれば投資する」新しい教育の在り方を知りました。

齋藤:当時、ダイヤグラムをつくることが流行っていましたよね。ダイヤグラムは、「こうしたい」と思っていても、データを入れると予想外の結果が出てくることもある。自分の思考の延長に面白いものが出てくるんです。

落合陽一(以下、落合):僕は泥遊びするような時期にWindows95で遊んでいたのですが、解像感が低かったので、デジタルに質量感を感じることもあれば感じないこともありました。片側にどっぷり浸かっていると、片側に特別感を感じるようになるんですよね。

草野:コンピューターにしかつくれないものと、人間にしかつくれないもの、それぞれどんなものがあるんですか?

落合:僕は、その境界線はないと思っています。コンピューターみたいな人間もいるし、人間みたいなコンピューターもあるので、そこに差はない。境界線を引かずに、「どちらが優秀だ」と決めつけない癒着点を持っていることが、デジタルネイティブだと思うんですよね。そうした感覚を持っている人は、YouTubeで観ているのと同じ感覚で、友達と一緒にいる。一人称で物事を捉えるか、二人称で捉えるかの違いしかないんです。

齋藤:僕は、感覚でしかできないことは、現場で確認するしかないと思いますね。「見た人が気持ち悪くならないか」といった繊細な心理を考えることは、まだ人間以外にはできないんじゃないかなと思っています。

豊田:デジタルの話や人間の心理の話をしていくと、結局哲学の話になってくるので曖昧になってきますよね。認識論や身体論の話になっていく。ただ、そうした哲学的な議論を経ていかないと「この領域なら実装できるよね」といった発想に至りません。これは建築業界だけではなく、あらゆる業界で言えることだと思います。社会を良くすることにおいては、広い視野を持つことが重要です。

建築家は、もっと稼げる仕事。「設計図を書く」以外のバリューも評価されるべき

草野:ここからは、SENSORSスタッフやMCから集めた、豊田さんに聞いてみたいキーワードをもとにお話を聞いていきたいと思います。まずは、齋藤さんからのキーワード「建築家というビジネス」についてお伺いしたいです。

齋藤:豊田さんのような建築家とは少し違うかもしれないのですが、いわゆる建築業界にいる「建築家」って、ビジネス的にはうまくいっているのでしょうか?

豊田:つらい質問ですね。先ほどのお話ともつながっていて、建築家が着手しなければいけない領域は社会の中でシフトしていっているのですが、これまでの建築家が踏み込んでいない新しい領域に挑戦する人がいないんです。誰かがやらなければいけないのですが、世間から期待されている建築家のイメージと、僕が知っている建築家のイメージに差がありすぎていて、そこの調整にすごく時間がかかっています。

齋藤:僕も同感です。ほとんどの建築家が、設計業にしか対価を支払われていないんですよね。本当は設計業以外にも稼げる所やビジネスになる所っていっぱいあるはずなのに…。

豊田:そもそも「建築家は設計をやる人」とだけ思われているんですよね。クライアントによっては「ここに土地があるから、ホテルかレストランをつくってください」と要求してくることがありますし…。さらに「提案しないと設計もさせてあげないぞ」といった空気を出してくる。それで業界が成り立っている節はありますよね。

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齋藤:それは建築業界だけではなく、デザイン業界にも当てはまると思います。要は、クライアント側が、知識を提供してもらうことに対する敬意が少ないんですよね。それこそニューヨークだと、そうした知見の提案に対しても十分なコンサル料をもらえるようになっているのですが。

豊田:建築家は設計図を書くこと以外にもバリューを出して、お金をもらっていいと思います。海外だと、そういったものが大きな収入源になっていたりしますよね。

齋藤:建築業界やデザイン業界には、そういうことを声を大にして言っていきたいですね。そこがネックになっているから、適切な賃金が支払われないのだと思います。

落合:大御所であればいいんじゃないですか?

豊田:いや、安藤忠雄の年収と、松井秀喜の年収って比べ物にならないんですよ…。

落合:業界によって、賃金に対する考え方が全く違いますよね。たとえば僕の場合、「メディア出演」と「クリエイティブに関するコンサルティング」と「研究」の3つの仕事をしているのですが、どれも「時間を割く」ことに対してフィーをもらっています。建築業界も同様の仕組みであれば、豊田さんのような建築家はいくらでも稼げるはずなのに、それが難しい。アイドルでも、駆け出しのアイドルならば無給の仕事もありますし、業界によって全然違いますよね。

齋藤:耳が痛いですね。

草野:クライアント側と建築家側で、認識のズレがあるんですかね。

豊田:そうですね。建築家の価値が「設計をすること」になっているんだと思います。「満足のいく設計をしてくれないと、お金は払わないぞ」といった発想が残っている。noizも設計事務所なので、そうした仕事を受けていて、設計料しかもらっていません。しかし同様のことをマッキンゼーのようなコンサルティング会社がやったら、もらえるフィーは2桁くらい違うと思いますよ。せめて今よりも1桁くらいフィーがプラスになるだけで、建築業界はだいぶ変わってくる気がします。そのためには、まずはロールモデルを作らないといけないと思っています。

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齋藤:今の話を聞いていて思ったのですが、1980年以前にあった仕事とそれ以降の仕事では、チャージの仕方が全然違うのかもしれません。80年代以前は、とりあえずクライアントの要望を聞いて、提案をすることから仕事が始まっていましたよね。しかし今は、スポットでしかお金をもらえないことが多い。それなのに「あれもやってほしい」「これもやって」など、注文ばかりが増えていくんです。だから、人件費もそれなりにかかります。海外の建築業界と比較しても、賃金のベースが違いすぎるんですよね。

落合:駆け出しの建築家でも、日本と海外では年収が4倍くらい違っているんですよね。

豊田:カリフォルニアでAIが扱える建築家は、最初から2,000〜3,000万円くらいもらっていますからね。恐ろしい。

齋藤:逆に、日本だと「こんなにもらっていいんだ」となってしまう。

草野:それでは海外に人材が流失してしまいますね。

落合:するでしょうね。日本食に愛がないと(笑)

豊田:だから、まずは僕らがモデルを作らないといけないと思います。バリューをチャージしてお金を作り、適切なフィーが払える体制を作っていくしかないですよね。

草野:落合さんの会社やライゾマティクスにも、「なんかやってよ」的なバックリとした提案が来ることは多いんですか?

落合:死ぬほどくるよ(笑)

草野:そういった場合、どのように仕事を進めているのでしょうか?

落合:僕の場合は、最初にロードマップを引いているパターンが多いですね。他のコンサルティングを受けてからうちに依頼が来る場合と、うちに最初から依頼が来る場合では、クライアント側の意思決定基準も違ったりしますから。どうやって目標達成するのか、意見を聞きながらロードマップに落としています。やり方は様々で、紙に落とす場合もあれば機材を使って空間設計を行う場合もある。いずれにせよ、まずロードマップを引くことが重要だと思います。

草野:ライゾマティクスさんはどんな感じなんですか?

齋藤:うちも色々なやり方がありますね。僕の場合は、まず面白そうなクライアントの話は率先して聞くようにしています。そこに対して「こういうことができるのであれば、やりたい」と提案しています。場合によっては「ここにフィーがかかるのであれば、一度考えます」と言われて、仕事がなくなることもあるので、そこは少し怖いんですけれど…。会社の利益を考えると、はじめに仕事を受けて後から上乗せでフィーをもらえないか相談する方が良いのですが、最近はそういうことをしないようにしています。

豊田:ライゾマティクスさんって、特殊部隊じゃないですか。特殊部隊じゃないとできない仕組みだから、そうした強気な姿勢が取れますよね。

落合:もう、業界全体でそういう姿勢を取るしかないんじゃないかな。たとえば映像業界は、カメラマンや照明さんに対するベースのフィーがある程度決まっていると思います。そうしたベースのフィーを作っていかないと、業界全体の賃金が上がらないですよね。だから一斉に上げていくしかない。そうしないと「じゃあ他の安い建築事務所に仕事を依頼します」と言われてしまうから。

続く第3弾記事の前半では、豊田氏の目に映る「ライゾマティクス齋藤精一」の姿が明かされた。共闘する仲間でもあり、競合でもある齋藤に対し「共感できる部分が多い」と尊敬の念を示し、齋藤も「日本の建築業界には、豊田さんのような人が必要不可欠だ」と返した。

中盤は、「2025年の都市」をテーマに議論が白熱。大阪万博にも携わる豊田氏は「万博を、新しい取り組みの実験場にしたい」と話し、齋藤も「2025年に向けて、準備を進めたい」と明かした。落合も「大阪万博を機に、日本列島3,0にアップデートするべきだ」と意見し、日本の未来についての意見が飛び交った。

後半は、落合からの質問「旧態依然とした建築事務所からの風当たりは強くないのか?」に、豊田氏が回答。先進的な取り組みを行う豊田氏は、「デジタルとアナログを両方理解しているから、意見しやすい」のだと話した。さらに、次世代の建築家の育成についても話が及び、司会の草野から「建築家の教育用ゲームがあってもいい」という意見も飛び出した。

建築、アートとそれぞれの業界で革命を起こしてきたMC陣と、コンピューテーションデザインを提唱し、建築業界に革命を起こす豊田氏。3名の議論から、今後の日本をより良くするヒントを探っていく。

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(SENSORS|落合陽一の趣味は70~80年代のCM!?ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 2/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-2-4 18:00:00)

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コンピュテーショナルデザインで、建築業界を改革するーー建築家 豊田啓介
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(左から)豊田啓介氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「コンピュテーショナルデザイン」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、建築家の豊田啓介氏(noiz共同主宰)だ。

全3回にわたってお届けする第1弾記事の前半では、豊田氏が提唱する「建築情報学」をテーマに展開されたトークの様子をお伝えする。「これまでとは違ったことをしないと、建築業界は改善しない」と話す豊田氏に、建築家出身の齋藤も深い共感を示した。

後半は、豊田氏が構想する物質世界とデジタル世界をつなぐプラットフォーム「コモン・グラウンド」をテーマにトークが展開。「スマートシティを実現する上で、アナログとデジタルをつなぐことが必要不可欠だ」と豊田氏の想いが語られた。さらに、建築家の教育についても話が及び、建築学科で教えるべきことについて議論が行われた。

建築、都市づくりに関わるMC陣、豊田氏との議論から、建築業界のあるべき姿を探っていく。

草野絵美(以下、草野):今回SENSORSが注目したテーマは、「コンピュテーショナルデザイン」。コンピューターが設計案などを割り出してクリエイトする、新しい概念です。本日は、いち早くコンピュテーショナルデザインを取り入れている建築家の豊田啓介さんをお招きし、お話ししていけたらと思います。

落合陽一(以下、落合):豊田さんとは、しょっちゅう一緒に仕事をしているんですよ。

草野:それはテレビで言えない仕事も含めてですか?

落合:まだ世に出ていない情報も多いですね。色々なところでご一緒させていただいています。

齋藤精一(以下、齋藤):僕は、コロンビア大学で教壇に立っていた頃に初めてお会いしているんです。そこから10年以上経っていますが、3日前に知り合ったような感覚ですね(笑)

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草野:お二人から見て、豊田さんはどんな印象ですか?

落合:一緒におでんを食べに行きたい(笑)。一緒にいると楽しい人です。

齋藤:一般的な建築家とは違う思考を持っていらっしゃいますね。一貫してコンピュテーショナルデザインに取り組まれている方は、なかなかいないので。

落合:ラボで研究している人はいるけれど、実践している人はなかなかいないですよね。

草野:そんなコンピュテーショナルデザインの第一人者、豊田さんとのトークセッションを始めましょう。

日本の建築業界は閉鎖的。実践と議論を繰り返さなければ、コンピュテーショナルデザインは普及しない

草野:今回のゲストは、建築家の豊田啓介さんです。豊田さんは、東京大学工学部建築学科を卒業後、安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学大学院の修士課程を修了。その後ニューヨークのSHoP Architectsで経験を積み、日本および台湾を拠点とする建築設計事務所noizを二人のパートナーとともに主宰。現在は、主に建築の分野でコンピュテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・制作・コンサルティングに取り組まれています。齋藤さんは同時期にコロンビア大学大学院にいらっしゃったとのことですが、交流はあったんですか?

齋藤:豊田さんは、僕がTA(ティーチングアシスタント)を担当していた講義を受けていたんですよね。

草野:齋藤さんは、豊田さんの先輩なんですね。

齋藤:英語はできませんでしたが、CGに関してはそれなりに勉強していましたからね(笑)。

豊田啓介(以下、豊田):「あいつすげえ!日本人だぞ?」と噂になっていました(笑)。

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草野:それでは、3つのキーワードをもとに、豊田さんの思想を深掘りしていきたいと思います。今回ディスカッションを行うキーワードは、「建築情報学」、「コモングラウンド」、「自分のタガを外す方法」。まず「建築情報学」ですが、noizはコンピューター上で建築を行うことを基本スタンスにしているんですよね?

豊田:建築業界ってすごく”重い”んですよ。時間はかかるし、責任も重いし…まるで重工業。だからこそ、建築は社会の中で長く残るのですが…。さらに、他の業界と比べると新しい技術を取り入れるのが遅い点も、ずっとなんとかしたいと思っています。

そもそも業界内でコンピューター技術を活用した事例がなく、「コンピューター技術を使うか否か」の議論もできていない。だから僕は、コンピューター技術を活かした建築を実践しつつ、学問として「建築情報学」を提唱し、新しい議論を生もうとしているんです。

落合:コンピュテーショナルデザインの話って、建築サイドから出てくる話と、コンピューターサイドから出てくる話で違うんですよね。興味を持っている学生は、どちらかというとアナログなバックグラウンドを持った人が多い。

齋藤:日本は、コンピュテーショナルデザインの普及が遅れていますよね。建築家は時代とともに変化する人の心理に敏感でなくてはいけないので、「なぜ建築心理学というものが存在しないのか」と常々疑問に思っています。

スマートシティや仮想通貨など新しいテクノロジーが存在する世の中を前提として、街や建築物の設計を行うべきですよね。日本の”おじさん”はそれができないから、若者の活躍が目立つようになっているのかもしれません。

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落合:建築業界の人が、データに疎いことも気になります。データを見て気になったことを質問すると「それは現場に行かないと分からないからね」と言われたりする。

豊田:共通のプラットフォーム上でなにかを行う発想を持つ人が少ないかもしれないですね。どちらかといえば、「現場でなんとかする」と言う人が多い。それが日本の良さでもあるのですが、これまでとは違うものをつくっていく意識がないと、なかなか変わっていかないかもしれません。

草野:学問としての「建築」は、国によって学ぶ内容が違っているんですか?

豊田:国というよりも、大学によって全然違いますね。「物質から離れて考えるのはやめよう」とか「コンピューター的に考えてみよう」とか、各大学によって軸となる考え方が違います。

草野:建築の仕事ってすごく学際的ですよね。合意形成が必要な仕事ですし、人々の暮らしにも常に目を向けなくてはいけないから。

落合:関係ない分野はないかもしれないね。

これからの建築家はプログラミングを学ぶべき。デジタルへの理解がなければ、社会実装型の建築は実現しない

草野:続いてのキーワードは、「コモン・グラウンド」。落合さんの提唱する「デジタルネイチャー」にも関連する話だと思います。

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豊田:スマートシティに関する仕事をする時、多くの人が「物質世界を、デジタルに正しく記述すること」に注力していると感じました。しかし僕は、2つの世界をつなぐことの方が重要だと考えていて。物質世界とデジタル世界をつなぐプラットフォームをつくるべきだと思っており、それを「コモン・グラウンド(共有基盤)」と呼んでいるんです。

落合:人間の目を介して光を「見る」世界と、データとして「読む」世界は全く違うんですよね。それぞれの世界で取れるコミュニケーションも全然違うから、物質世界とデジタル世界の各々がデジタル言語に変換されていなければ、スマートシティは実現しない。

草野:齋藤さんは「コモン・グラウンド」についてどう思われますか?

齋藤:豊田さんのおっしゃる通りだと思います。おそらく建築業界でも、個別ケースに目を向ければ、「コモン・グラウンド」のような思想で頑張っている人もいるじゃないですか。僕の会社でも「地図は2Dではなく3Dにするべき」と言っていて、既存の地図をスキャンして立体化したりしています。スマートシティ化も、多くの企業が取り組んでいまよね。このようにプレイヤーは増えているのですが、指揮者不在なんですよね。

豊田:用途と目的がはっきりしていないから、先陣を切る人がいないのだと思います。

落合:タスク思想の人が多いんですよ。

豊田:既存の学問や工学ベースだと、「正しいことを積み上げる」スタイルが取られがちです。しかし確証がなくても、「20年後にはこうなっているはずだ」と思うことを掘り下げて、アプローチをしていかなければいけないんじゃないかなと思いますね。

齋藤:SENSORSでもよく警鐘を鳴らしていますが、1つの世界だけを見ていてはいけないんですよね。建築のことだけを分かっているだけでは不十分で、インターネットの歴史も理解していないとダメなのかもしれません。そうした人材が、業界内で不足していると思います。

豊田:つまはじきにされているのかもしれない(笑)。

齋藤:僕は、つまはじきにされても困らないですけれど(笑)。

草野:ゲーム業界では、「コモン・グラウンド」が進んでいるそうですね。

豊田:進んでいるというか、活用しやすい業界なのだと思います。既にゲームAIの普及が広まっているから、「ユーザーの反響を高めるためにはどのような記述をすればいいか」といった、本来建築業界でもなされるべき議論が日常的に行われているんです。

建築業界は、ゲーム業界に比べて法律などの規制も多いですから、頭を固くせざるを得ない部分もあって…。落合さんや齋藤さんは、デジタル技術を駆使した取り組みを色々とされているじゃないですか。僕ももっと、そうした取り組みを行なっていきたいと思っています。

落合:ゲームの中だと、「このアイテムを落としたら、全員がその人を殺していい」みたいなルールも作れますからね。

豊田:ダンジョンに入るたびにマップが変わっていたりするなど、コントロールできるのが面白いですよね。本来、都市やイベントといった現実世界においても同じようなことを行うべきだと思うのですが、全体最適よりも個別最適を優先しがちなので、なかなか実行できない。

齋藤:昔「ゲームエンジンを使って、何ができるか」を研究していた思想家がいました。ゲーム開発にも従事している方だったのですが、もしかしたらゲームエンジンを作っている人が、建築業界で教鞭をふるった方がいいのかもしれませんね。

豊田:大学の建築学科は、デジタル技術を教えることを億劫に思っているのではないかと思います。アナログな手法ばかりを教えているというか…。

落合:デジタルもアナログも、どちらも理解していないとダメですよね。1つのマテリアルを、デジタルで見るかアナログで見るかは全然違うから。「手触り」を「解像度」に置き換えることができるかどうかが、非常に重要です。

齋藤:建築学科のプログラムの大半が、デザインの話なんですよね。本来建築家は、3Dから医療まで横断的に知識を持って、物事を考えなくてはいけないと思うのですが…。少なくとも、建築には他の様々な分野が関わっていることや、それらを統合することができるということを、もっと伝えていかなくてはいけないですよね。

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豊田:建築学科の学生に、プログラミングを教えたいんですよね。落合さんと齋藤さんが仰るように、これからの建築家はアナログとデジタル両方の視点を持たないといけない。あらゆる業界に共通して言えることですが、別の領域にはみ出していかないと新しい視点が持てません。建築学科の学生に「Uberのビジネスモデルが分かるか?」と聞いても、2〜3人しか答えられないんです。そんな状況で、社会を良くする建築が生まれるとは思えません。コンピューターサイエンスの道と街づくりの道、どちらに進むにせよ、ビジネスやテクノロジーの素養を持っておくべきだと思います。

草野:コンピュターサイエンスの学生と建築学科の学生がコラボしていった方が良さそうですね。

落合:60年代〜80年代は、そういった動きがあったんですけどね。MITメディアラボで行われていたことが、建築学科の授業で応用されていましたよ。

草野:本来学際的にやっていたものが、閉鎖的になってきているんですね。

豊田:専門外の人と話すためには、共通言語を持っていないとダメですよね。今の時代、コンピューター言語が分からないと、建築情報学が理解できないと思います。

齋藤:アナログとデジタル、両方を理解した上で「アナログな建築をやりたい」と言う人が現れてもいいとは思います。でも、今はアナログな建築を教えることしかできていないから、コンピューターサイエンスや電子工学など、様々な分野と一緒に建築を教えてプロフェッショナルな人材を育てていきたいですね。

草野:SENSORSを観ている建築学科の学生さんたちに、そうした人材になってほしいですね。

齋藤:建築学科の学生も「そうだそうだ」と言うんですけど、本当にそう思っているんだったら一揆を起こせばいいんですよ。

豊田:扇動してくれる誰かがいないと、はじまらないような状況になっていますよね。

続く第2弾記事の前半では、豊田氏の「自分のタガを外す方法」を探っていく。自分を外の世界に連れ出すために、コンピューター技術を習得したという豊田氏は、「社会を良くすることにおいては、広い視野を持つことが重要だ」と、業界の問題を指摘した。

後半は、齋藤が提示したキーワード「建築家というビジネス」をもとに、トークが展開。閉鎖的な建築業界のアップデートに取り組む豊田氏の話に、MC陣も共感を示し、齋藤は「建築家は設計図を書くこと以外でもっと稼げる」と示唆した。さらに適切な賃金が支払われない業界の問題に対して、落合は「業界全体でベースを上げていくべきだ」と指摘した。

先進的な取り組みを行う豊田氏の思想から、社会実装型の建築を実現するためのヒントを探っていく。

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(SENSORS|落合陽一曰く”建築学生はもっとデジタルで遊ぶべき”.ゲスト:豊田啓介( コンピューテーショナル・デザイン 1/3))

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-1-31 18:00:00)