SENSORS

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次世代エンターテイメントは、現実を凌駕する体験にーエイベックス「2nd Function」がDOLLHOUSEを開催
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スマホ1台あれば、何万もの曲をポケットに入れて持ち運べる。お気に入りのアーティストのPVや、異国の地で開催されている音楽フェスも、YouTubeを通して観ることができる。

テクノロジーの発達で、好きなときに、好きな場所で、音楽が聴けるようになった。簡単に音楽が手に入る今の時代、レコード会社の役割はなにか。

「僕たちは、”どこでもドアがある時代の鉄道会社”になりたいんです。いまは移動手段として使われている鉄道ですが、世界中のあらゆる場所へ瞬間移動できる『どこでもドア』が登場したら、純粋に『電車に乗る』行為を楽しむエンターテインメントとなるでしょう。移動手段としての価値がなくなっても、車窓の景色を眺めながらゆったりと移動する楽しみは、変わらずに求められるからです。」

そんな想いのもと、次世代のレコード会社の在り方を模索しているクリエイター集団がいる。創業30周年を迎えるエイベックスの”ファントム組織”「2nd Function」だ。PCやスマートフォンをジャックする新たなミュージック・ビデオの制作、ラグジュアリーブランドへのARコンテンツの提供など、高次のエンターテインメントの形を探求してきた。

2018年8月4日、彼らが新しく取り組むエンターテック・イベント「ADIRECTOR(アディレクター)」が始動した。本イベントは、音楽が簡単に手に入る時代に価値を持つ、”非日常”を体験できる場所だ。第一弾として開催されているのが、「ADIRECTOR vol.1- DOLLHOUSE」。表参道交差点に面したビルを丸ごと一棟ジャックした会場では、次世代エンターテインメントの可能性を探る、”エンターテック”の実証実験が行われていた。本記事ではDOLLHOUSEで体験できる、現実体験を凌駕する次世代エンターテインメントを紹介していく。

次世代型ライブは、音楽を体感する場所に。テクノロジーで拡張されるエンターテインメント体験

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ピンクのネオンに照らされた階段を上がると、ステージに佇む2体のマネキンが目に入る。近未来的なコスチュームに身を包み、空(くう)を見つめる彼女たちは、一体何者なのか。会場を訪れたゲストは不思議そうな顔でステージを眺めている。

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突然流れ出した音楽と共に、それまで微動だにしなかったマネキンたちが動き出す。彼女たちの動きには、人間らしい滑らかさは一切ない。無機質に繰り広げられるダンスパフォーマンスを見ていると、SF映画で描かれる「アンドロイドと共存する未来都市」が頭をよぎる。彼女たちの名前は「FEMM」。過激でコケティッシュなラップが欧米のティーンに支持され、世界中でパフォーマンスを行なっている「マネキン・デュオ」だ。

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FEMMのライブパフォーマンスには、最新鋭のテクノロジーがふんだんに活用されている。彼女たちは突如現れる光の糸によって、”マリオネット”のように操られているかのように見える。これは、リアルタイム可変レーザー「i_to(イト)」によるものだ。リアルタイムで動きをトラッキングし、ダンスに合わせてレーザーが追従する技術で、今年3月に行われたフィンランド発のスタートアップカンファレンス「Slush Tokyo 2018」でも話題となった。

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次世代のライブパフォーマンスは、衣装チェンジも超高速で行われる。パナソニックが開発した「高速追従プロジェクションマッピング技術」によって、ランダムに動く彼女たちの衣装にリアルタイムで映像が投影されている。

従来のライブパフォーマンスは、基本的に演者側が事前に決めた演出に基づいて行われるものだ。しかし「i_to」や「高速追従プロジェクションマッピング技術」を使った演出が一般的になった場合、演出をリアルタイムで変化させられるようになる。ゲストがその場で「i_to」の色を変えたり、好きな映像をアーティスト衣装に投影することも可能になるかもしれない。

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ライブ中盤、FEMMは高輝度透明ディスプレイに近未来的なVJが映し出されるDJブース「MNGL(ミングル)」の中に移動し、パフォーマンスを行った。人間の耳には聞こえない音波「非可聴音」を認識する、ADIRECTOR 専用スマホ・アプリを用いたサプライズ演出もあり、ゲストからはどよめきが起こる。

次世代エンターテインメントの主役は「観客」。テクノロジーで紡ぐ、”ADIRECTOR”たちの物語

「ADIRECTOR(アディレクター)」というタイトルは、「個人や単数を意味する “A” 」と「方向性を決めるという意味の “DIRECTOR” 」を組み合わせた新造語だという。これは次世代のエンターテインメントを享受する人びと、つまり今回のDOLLHOUSEに訪れたゲストを表している。一般的に、ライブに訪れた人びとは聴衆・大衆といった意味を持つ「オーディエンス」と表現され、演者と区別されることが多い。しかしYouTubeやTik Tok、Instagramのライブ配信など今日におけるエンターテインメントにおいては、コンテンツを見た人からのコメントや指示によって形が変わっていく。オーディエンスと演者の境目が融解しはじめているのだ。

「次世代のエンターテインメントを享受する人に対して、『オーディエンス』という表現は適切ではありません。」

そんな2nd Functionの想いを体現した本イベントにおいて、先ほどご紹介したライブパフォーマンスは単なるイントロダクションにすぎない。2nd Functionが提案する「次世代のエンターテインメント」は自分で体感し、自分で語ることができる”ナラティブ”な体験だからだ。

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ライブ終了後、ゲストたちはFEMMの衣装に投影されていた「高速追従プロジェクションマッピング」を自身に投影したり、世界最大の先進技術の見本市「CES 2018」で発表された「次世代AR/MRライヴ装置ACRONS(アクロンズ)」などを体験した。

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光源にズレを与えて、カラフルな影を生み出す「RGB_Light」の下では、自身の影を撮影し、自ら”作品の一部”となる若い女性の姿も目立っていた。

一方的にただ観るだけではなく、自らが主役となって体験しているゲストたちの姿は、まさに2nd Functionの思い描いた”ADIRECTOR”であった。

現実を超えるバーチャル体験で、エンターテックは民主化される

2nd Functionは、テクノロジーを活用したエンターテインメント”エンターテック”を民主化させようとしている。その第一歩として、VR / AR技術の可能性を探求しているのが、DOLLHOUSEだ。

社会全体を見ると、VRヘッドセット「Oculus Go」やGoogleによるARプラットフォーム「ARCore」などが登場しているものの、利用しているのはまだまだ一部の層に限られる。VRやARなどのバーチャルな体験は、現実の代替手段としてのイメージが強いのではないだろうか。

しかし、2nd Functionは現実と同じレベル、もしくはそれ以上の価値ある体験を提供したいと考えている。

「テクノロジーの進化と共に、VRやARライブのレイヤーをリアルと同等、もしくはそれ以上に持ち上げたいんです。ライブを観に行く時に、リアルかVRかを迷ってしまうような時代を夢想しています。」

たとえば「次世代AR/MRライヴ装置ACRONS」が一般に普及した場合、好きなアーティストのライブを好みの曲順や衣装で演出できるようになるだろう。現実では味わえない、オリジナルのライブを開催することができるのだ。

DOLLHOUSEは特別な機材がなくても、最新テクノロジーを手軽に体験できる場所だ。このような実証実験を繰り返すことによって、現実を超える体験となる「未来のエンターテインメント」が徐々に確立されていくのだろう。

構成:井下田梓

ライター・編集者。アパレル販売、WEBマーケターを経て、現職。関心領域はファッションテック、映画、文化人類学。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。

Twitter:@masakik512

(2018-8-17 18:00:00)

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「わかりあう」は難しい。でも、"脈打つ"インターネットで人と人をつなぎたい–ミラティブ赤川隼一の思索
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スマホ単体でのゲーム実況を可能にしたライブ配信アプリMirrativ。機材を準備せずに誰でも「数タップ」で配信を始められる。高度なゲームプレーやトークスキルが求められるイメージの強い「配信」を、”好き”を軸につながれる場として進化させたサービスだ。

スマホゲーム配信数・配信者数ともに日本一を誇るMirrativ。その最大の特長は「ゲームの配信を通じて友達ができること」であり、ゲーム体験を豊かにする設計により作品へのリテンションを高める効果もある。

Mirrativを運営する株式会社ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏は、現代を「プロダクトの時代」と表現する。最年少で株式会社ディー・エヌ・エーの執行役員まで登りつめるも、自らその立場を降りて事業をスタート。MirrativをDeNAの社内新規事業からMBO(マネジメント・バイアウト)する形で、会社を立ち上げた。

赤川氏の創業経緯の背景には「スマホ用配信アプリのニーズ」への確信と「コミュニティの分断をつなぐ」という願いがあった。

「腕が錆びていく感覚があった」執行役員を退任し、事業立ち上げに挑む

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スマートフォン向けのライブ配信アプリ「Mirrativ」。スマホ画面をわずか数タップで生配信・録画でき、ゲーム実況を中心に10代から20代のユーザーに支持されているサービスだ。8月には、スマホだけでVTuber(バーチャルYouTuber)のようにアバターを着て配信ができ、ゲーム実況とも融合する新機能「エモモ」をリリースした。

そんなMirrativのAndroid版がリリースされたのは、2015年8月。当時、DeNAで執行役員を務めていた赤川氏が、役員を退任する形で事業立ち上げに挑んだ。Yahoo!モバゲーや韓国事業の立ち上げを経て、”最年少”で役員まで上り詰めた赤川氏は、なぜ再びプロダクトづくりに向き合おうと考えたのか。現代を「プロダクトの時代」と形容する同氏の考え方が浮かび上がってくる。

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株式会社ミラティブ代表取締役 赤川隼一氏

赤川:僕たちが生きている2010年代は、プロダクトの時代だと考えています。アメリカの時価総額ランキングで上位になったGoogleやFacebook、Apple、Amazonはマーケティングの上手さで良くない製品を競合より売るのではなく、優れた顧客体験のプロダクトが全ての基点になっている。それが価値を生み、企業の競争優位につながる時代なんです。

プロダクトの時代において、赤川氏はある危機感を抱いていた。赤川氏が最後にプロダクトづくりに直接ゼロから関わったのは、『Yahoo!モバゲー』を立ち上げた2010年頃。「現場というよりもマネジメントの執行役員に留まることで自分の腕が錆びていく感覚があり、新たな挑戦を始めたい欲求が日に日に強くなっていった」と、Mirrativリリース前夜を振り返る。

「Why you?(なぜあなたがその事業をやるのか)」。起業家に対して、こう問う投資家も多い。議論の余地はあるにしろ、強い原体験は、事業を成長させる力になる。赤川氏にとって、自身が取り組むべき事業とは何だったのか。

それは、「インターネットのコミュニティ作り」であった。

学生時代の原体験と、事業領域への自信を胸に創業へ。目指したのは”好き”を軸に接点を持てるプロダクト

一般的なゲーム実況サービスとは異なり、Mirrativはユーザーによるコミュニティが生まれやすい設計になっている。赤川氏の学生時代の体験が、色濃く反映された形だ。

赤川:音楽が好きでたまらなかった高校時代、チャットルームで出会った見知らぬ大人たちに、色んな音楽を教えてもらったんです。インターネットを介せば、性別や年齢、職業なども関係なく、同じ趣味の人とつながって自分の知らなかった世界を知ることができる。そんな嬉しさが、今でも記憶に残っています。

インターネットを通じて人と人が接点を持てるプロダクトを開発したいーー。新事業に取り組む上で赤川氏が注目したのは、ゲームの領域だった。DeNAを長年支えてきたのは、モバゲーを中心とするゲーム事業であり、その領域にアイデンティティを持ちつつも、赤川氏が注目したのはゲーム実況の市場成長だ。

2014年、Amazonに約1000億円で買収されたPCゲーム向けの実況サービス『Twitch』を筆頭に、ゲーム実況サービスが市場に登場していた。「PCゲームの実況サービスが伸びているのだから、さらに人口が多いモバイルゲーム実況にも必ず同じ波が来る」それが赤川氏の読みだった。

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ゲーム実況の領域で事業を模索するなかで、スマホ単体での画面プロジェクションができる技術を発見したときに、「この機能を使えば新たなサービスを作れるはず」と感じたという。

赤川:当時、スマホゲームの配信はとにかく骨の折れる作業でした。ややこしい機材をセッティングし、配信中もPCの前に居続けなければいけない。スマホ単体で手軽にゲームの配信ができるサービスには、ニーズがあると確信していました。

「ユーザーが主役になれるサービスを」Mirrativの設計思想

ニーズを確信したとしても、事業の立ち上げは困難の連続だ。起業家にはさまざまなHARD THINGSが降りかかる。Mirrativを立ち上げたばかりの頃、配信しているコンテンツがなければ視聴者は訪れない。アプリを起動してもライブ配信が一つも行われていない当時の状況を、赤川氏は「まるで荒野のようだった」と振り返る。

赤川氏は自身でカスタマーサポートを担当し、一日中TwitterなどのSNSに張り付いてひたすらユーザーとコミュニケーションをとった。Mirrativを利用してくれる配信者を見つければ、すぐに運営アカウントから挨拶し、配信の拡散を行った。

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1ヶ月ほど続けると、変化が起きはじめた。まったく未知の状態から配信をスタートしたユーザーが、運営を媒介にして他のユーザーとつながりはじめる。それは、Mirrativが人と人をつなげ、新たな交流を生み出した瞬間であった。

Mirrativでは、視聴していたユーザーが配信する側にまわることも多い。その循環が回ることで、配信ユーザー数が増えていく。

赤川:ユーザーが主役となり、気軽に配信できるサービス設計を心がけています。有名な方に声をかけサービスを利用してもらえれば、一時的な視聴者数は増えるかもしれない。でも、それでは”無名”の配信ユーザーが萎縮してしまう可能性もある。Mirrativは再生数やチャンネル登録数を増やすことだけが目的となるのではなく、ひとりでも共鳴できる友だちを見つけられる場所でありたい。

ゲームプレイやトークがうまくなくていい。ゲームの配信を通じて人と人をつないでいきたい。そんな赤川氏の願いどおり、Mirrativは「ゲームを通じて友達ができる」点が支持され、着々とアクティブユーザーを増やしている。

「友達ん家でドラクエやっている感じ。」

赤川氏はMirrativでのゲーム配信体験を「友達ん家でドラクエやっている感じ。」と表現する。

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赤川:『ドラクエ』は一人用のゲームであるにも関わらず、友達の家に集まって、それを誰かがプレイするのを見るのも楽しかったですよね。プレイするのが一人でも、ドラクエがその場にいる人と人との交流を生み出している。

ゲームは本来的にソーシャル性の高いコンテンツであり、作品というよりは体験として消費されるものだと捉えています。しかし、ゲームにまつわるコミュニケーションは年々無機質化している感覚がある。ソーシャルゲームの時代になり、逆にソーシャル性が失われたのではないかとも思います。Mirrativで実況配信を支援することで、ゲームにソーシャル性を取り戻したい。

赤川氏がソーシャル性の高いコミュニティとして挙げたのが、mixiコミュニティだ。自分の趣味や興味、関心に基づいてコミュニティに入り、そこのメンバーがまた違う分野の趣味について熱く語る場所だった。だが、FacebookやTwitterの登場ととも、mixiは廃れていってしまった。

赤川:mixiからFacebookの時代になり、趣味で人とつながる機会が減ってしまったんです。Facebookはリアルの友人とつながるツールであり、”ソーシャル性”の高いメディアではあるのですが、僕が求めていたのは、好きなものでつながれるコミュニティだったんです。

“脈打つ”インターネットの時代を撃ち抜く

「Mirrativで出会ったユーザー同士って、すぐに仲良くなるんですよ」

赤川氏にユーザーの特徴を聞くと、こう答えてくれた。配信者とユーザーが共通の趣味であるゲームをきっかけに仲良くなり、その翌日には雑談配信をしていることもあるという。なぜユーザー同士のつながりが促進されやすいのか。「情報量の増加」と「双方向のコミュニケーション」が影響を与えていると、赤川氏は考察する。

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赤川:インターネットでのコミュニケーション手段は、テキスト、画像、そして動画と、歴史を経るごとに徐々に情報量が増えていきます。Mirrativはリアルタイムでの動画共有なので、配信者が生々しい感情を表現しやすく、その人柄が伝わりやすい。

また、双方向のコミュニケーションを取れることも要因のひとつ。Mirrativは一方通行の「ゲーム実況」ではなく、ゲームを通じてコミュニケーションを生みだすサービスなので、お互いが自身のことを共有し、仲良くなりやすいんですよ。

赤川氏はこのような状況を「エモい」と表現し、「インターネットでエモさを伝えられる時代になってきた」と述べる。SENSORSにてMCを務める落合陽一氏もたびたび口にする「エモい」というキーワード。赤川氏は自身の会社を当初「エモモ」と名付けたように、この言葉には特別な思い入れがある。

赤川:インターネットの本質は、個のエンパワーメントにあると考えています。テキストから画像や動画のコミュニケーションが主体になり、そこに載せられる個人の感情や熱量が増えていく。自分の好きや偏愛を発信でき、それに共鳴してくれる人とつながりやすくなった。インターネットがエモく変化していることに他なりません。”脈打つ”インターネットとよく表現するのですが、Mirrativはその感覚を拡張するサービスでありたいですね。

個のエンパワーメントは、インターネットの根本思想として受け継がれてきた考え方だ。1970年代に「POWER TO THE PEOPLE」と歌ったのはジョン・レノンだが、シリコンバレーを中心としたテクノロジー企業の源流をたどれば、1960年から70年代のヒッピーカルチャーに行き着く。当時から掲げられてきた理想をMirrativは継承しようとしている、エモく進化したインターネットとともに。

社会の分断を食い止め、人々の「わかりあい」を促したい

2018年4月、DeNAから事業をMBO(マネジメント・バイアウト)し、株式会社ミラティブを設立した。同タイミングで、グロービス・キャピタル・パートナーズらから10億円越の資金調達を発表した。

DeNAというメガベンチャーのいち事業から、スタートアップへ。驚くことにプロジェクトに関わるすべてのメンバーがミラティブへの移籍を決めた。DeNA時代にも「プロダクトに強く共感してくれる人と働きたい」と、赤川氏は人事部から”降ってきた”人材ではなく直接メンバーを採用していた。

DeNAに比べれば、スタートアップは不安定な環境になる。けれども、同じ目標を掲げて邁進していたチームは、さらに大きなビジョンを描き、前に進もうとしている。MBOに際して、ミラティブは新たなミッションとして「わかりあう願いをつなごう」を定めた。

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赤川:僕は「わかりあうことの難しさ」を人類の根源的課題の一つだと捉えていて。人間が会話をしたり組織を作ったりするのも、結局のところ自分や相手のことを理解したいからではないでしょうか。

フィルターバブル現象がBrexitやアメリカの大統領選に影響を与えたと言われているように、インターネットの進化と反比例して起こっている分断もある。その分断をいかに食い止め、世の中の「わかりあい」を進められるのか。ミラティブではゲームを媒介として、そんな世界を目指したいんです。

「わかりあえない」ことが、社会でさまざまな問題を引き起こしている。ソーシャルメディアが引き起こしたエコーチェンバー現象や、フェイクニュースの蔓延で、価値観や信条が異なる者同士の対立は進んでいる。そこには、他者に不寛容な社会が立ち現れている。

インターネットが人と人をつなぎ、世界をよりならめらかにしたはずなのに、悲しいことにそれは壊れてしまった。だが、赤川氏はインターネットの持つ可能性を諦めていない。Mirrativを通じて、人と人の「わかりあい」を促進していく。

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公式キャラクターのミラビット(左)、ブル太(右)

現在スマホの普及率は世界中で増加傾向にあり、日本では人口の7割近くが利用している。テクノロジーの進化は不可逆であり、ますます常時接続の時代に向かうことは明らかだろう。そんな時代の流れに対して「スマホなしで生活できないなら、スマホに触れている時間をより豊かなものにしていけばいい」と赤川氏は考える。

赤川:ゲーム実況をするからといって、すごいプレーを見せつけたり面白いトークを展開する必要はありません。友達の家でドラクエで遊ぶように、気負わず配信すればいいんです。どうせゲームするなら、誰かとプレーする体験として消費したほうが楽しいですよね。スマホの画面が常時共有され、ゲームを通じて人と人のコミュニケーションが加速する。そんな未来を目指したいんです。

構成:岡島たくみ

95年生まれのライター。神戸大学経済学部在学中。ビジネス・テクノロジー領域を中心に執筆しています。

Twitter:@tkmokjm

編集:岡田弘太郎

1994年生まれの編集者 / DJ。『SENSORS』シニアエディター。大学在学時に『greenz.jp』や『SENSORS』で執筆、複数のウェブメディアで編集を経験し、現在は編集デザインファーム「inquire」に所属。関心領域はビジネス、カルチャー、テクノロジー、デザインなどを横断的に。慶應義塾大学でデザイン思考/サービスデザインを専攻。

Twitter:@ktrokd

(2018-8-13 08:00:00)

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「私にとって、ソーシャルメディアは広場なの」クリエイティブに魅せられた、21歳のストーリー・テラー–ケイラ×草野絵美 #EmisSensor
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SENSORS MC草野絵美が、今をときめく気鋭のクリエイターをピックアップし、インスピレーションの源泉を紐解いていく新連載「#EmisSensor」。第二回のゲストは、現役大学生でありながら、音楽、映像作品を媒介に、ストリー・テラーとして活躍するアーティスト、ケイラ・ブリエットをゲストに招いた。ケイラは、弱冠21歳にして、サンダンス映画祭受賞作家であり、SXSWにも出演したミュージシャンでもある。

彼女たちは、2016年にサンディエゴで開催されたAdobeMaxで出会って以来、意気投合した。年間二週間ほど、ロサンゼルスと東京でお互いの家に泊まりあってて創作活動を行う仲だ。

SENSORS MC草野絵美が、弱冠20歳のストリー・テラーの半生、世界を股に掛けるクリエイターとしてのマインドセットを聞いた。

ケイラと絵美「大切なことはすべて、iMacが教えてくれた」

草野絵美(以下、草野):
ケイラ、久しぶり。去年の今頃もこうして日本にいたよね。『Break! Break! Tic! Tac!』のVR MVを撮ってもらったのを鮮明に覚えています。
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ケイラ・ブリエット

ケイラ・ブリエット(以下、ケイラ):
今日は、私と絵美がクリエイターとして対談し、インスピレーションについて話をするんだよね?
草野:
そうなの。楽曲制作や映像制作など、弱冠21歳にして、SXSWを初めとするフェスで活躍するミュージシャンであり、サンダンス映画祭で受賞する映像監督、多方面で活躍するケイラと、お互いのクリエイションの源泉ついて話をしていきたいと思います。

そもそもケイラは、どうして音楽を作ったり、映像作品を手がけるようになったの?

ケイラ:
随分むかしの話になるけど、まだとても幼い頃。私は、人の目を見て話すのが苦手なくらいシャイだったの。ただ、8歳の頃に、父が私にアメリカの南西部に古くから伝わる踊りを教えてくれて。そこで、「言葉以外にも伝える手段はあるのだ」と知りました。

そこで、自宅にあったiMacで音楽を作り、音楽によってコミニュケーションを取るようになりました。これが、アーティストになる原点です。ちなみに絵美は、どうしてアーティストになったの?

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草野絵美

草野:
クリエイションの原点は、同じくiMacの『キッズピクス』というソフトで絵を描いていたことかな。それから、自分で歌を作ってみたり、服を作って人形に着せて写真を撮ったり、いわゆる”アート”的なものを制作していて、ホームページで発表してた。

そのなかでも、私は「二度と戻ることのできない」過去のコンテンツに夢中だった。10代後半くらいにテーマが定まり、『Satellite Young』でレトロな音楽を手がけるようになったの。すごく協力的な親の元に生まれ、「好きなことをしなさい」と育てられたことも、今の活動に少なからずつながっているかもしれない。

ちなみにケイラは「ストーリー・テラー」を名乗っているけど、その呼び名はどこからきたの?

ケイラ:
少し長くなるけど、説明するね。私の母親はオランダ系インドネシア人と中国人の移民のあいだに生まれ、父はアメリカの先住民・ポタワトミ族です。なので私には、どの国にも帰属意識がなかった。お父さんやお母さんの文化を学び、それらの架け橋になることで、自分のアイデンティティを確立しようとしていたの。

そんな折、とある楽器に出会います。おばあちゃんが持っていた中国の古筝です。古筝は、5音の音階によって調律されていて、この音階は、世界中のさまざまな音楽に含まれます。中国の民謡はもちろん、アメリカの先住民族の音楽も、エレクトロミュージックもです。

この発見に気付いたとき、私は自分の”言語”を手にしたような感覚を得ました。この一体感を、過去から今に続く物語を、音楽や映像というタイムカプセルに入れ、伝えていきたいとも思いました。私が「ストーリー・テラー」を名乗る所以です。

“肩書き文化”の日本に現れた、草野絵美という異色のアーティスト

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草野:
ストーリー・テラーとして、過去から今に続く文化を伝えていきたい。その手段が楽曲制作であり、映像制作なんだね。ケイラは大学生だけど、音楽映像が専攻ではないんだね。
ケイラ:
今は通信制の大学で主にコンピューターサイエンスを専攻しているんだけど、その理由は、ストーリー・テリングの手段になりうるから。VRやARも研究しているけど、根底にある想いは変わらないの。

MITでもブロックチェーンのカンファレンスに奨学生として選ばれて参加したんだけど、イノベーションが起こる現場を間近で見れる機会が多かった。そんな光景を見ていて、テクノロジーとクリエイティブを組み合わせることに関心を持っています。

草野:
そうなんだ!私もこれまで、フォトグラファーをしたり、アプリの会社を起業したり、いわゆる”飽きっぽい”性格で。でも、Satellite Youngを結成してからはずっと活動を続けられているの。

その理由は、Satellite Youngを軸に、歌を作ったり、映像を作ったり、演技をしたり、ライブの演出をしたり、インスタレーション作品を作ったり。さまざまな活動をできているから。これかも、肩書きにとらわれず、いわゆる”ミュージシャン”の枠を飛び越えていきたいと思っています。

ケイラ:
絵美の素晴らしいところは、肩書きにとらわれがちな文化にいても、仕事の裾野を自分の力で広げていけるところ。会社員をして子育てもしながらも音楽制作をしていたなんて、本当に尊敬します。

私にとって、ソーシャルメディアは”広場”ーーインターネットが育んだケイラのクリエイション

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草野:
私たちの共通点を考えてみたんだけど、「ソーシャルメディア」の存在が創作活動に大きく影響をあたえていることだと思います。ケイラと直接会ったのは多分5分くらい。それでも、仲が深まって一緒に旅をしたりコラボすることになったのもインスタでつながってたからだよね。世界中の人とつながれる環境があったからこそ、生まれた作品が多いの。ケイラも音楽と映像の作り方をYoutubeで全部学んだっていってたよね。創作活動とネットやソーシャルメディアとの関係性について教えて!
ケイラ:
ソーシャルメディアがない時代のアーティストは、「自分のために作る」ことがメインになっていたと思います。ただ今となっては、いつでも、どこにいても、世界中に作品が発表できる。同様に、世界中のアーティストから学べるようになったので、たくさん影響を受けているかな。

もちろん、インターネットから離れて1人で過ごす時間も大事。そこはバランスです。私にとってソーシャルメディアは、人と人とのつながりを保って集まれるような広場のようなもの。自分だけの時間と広場に行く時間を行き来して、クリエイションにつなげています。

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ケイラ:
こうして誰でも発信ができる時代に、ストリー・テラーを名乗ることには重大な責務があります。情報を伝えることは、歴史を作ることと同義です。

たとえば、いま世界で起こっている差別だったり人権問題も、過去の歴史のネガティブなストーリーが原因になっている。もしかすると、もう少しポジティブに伝えることができていれば、世界は変わっていたかもしれません。「私の発言や作品が歴史を左右することもある」と考えながら、ストーリーを紡いでいるの。

街に咲く「素敵な花」から言葉を紡ぐ。ストーリー・テラーは、テクノロジーと日常をつなぐ

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草野:
ケイラは、一貫性を保ちつつも、TEDに登壇したり、VR作品を手がけたり、毎年新しいことに挑戦しているところが素晴らしいと思います。そうした活躍をする上で大切なことって何だろう?
ケイラ:
環境にとらわれず、ポジティブなマインドセットでいることが大事だと思っています。自分自身がどのような考えを持って取り組むかで、結果は大きく変化する。たとえば、ネガティブなマインドセットが染み付いていると、良い結果は出ないんです。

文化の壁があろうと、自分自身に壁があったとしても、恐れてはいけない。私はどんなときも、「失うものはない」と信じています。

草野:
素敵!そうしたポジティブなマインドセットでいれば、作品もいいものになっていくのかな?
ケイラ:
そうだね。創作活動をしていると、集中しすぎて視野が狭くなってしまうことがあるけど、意識的にポジティブでいれば、日常にある幸せに気づくことができるの。たとえば日本に来てから、素敵な花を見たり、美しい建築を見たり、街にいるだけで感謝すべき幸せを感じられる。そうした感覚は、ストーリー・テラーの活動に生かされています。
草野:
ケイラといるとこっちも前向きな気持ちになれるよ!今回も一緒に一曲書いたりしたのが楽しかった!近々発表するのが楽しみです!

Kayla Briët – Odyssey

ケイラ・ブリエット

1996年 アメリカ・ロサンゼルス出身。ポタワトミ族の父と、オランダ系インドネシア人と中国の母をもつ。父の民族文化についての短編ドキュメンタリー「Smoke That Travels」はサンダンス映画祭を初めとする多くの国際的な賞を受賞し現在スミソニアン博物館に貯蔵されている。また、中国の伝統楽器古筝を駆使した音楽家・歌手としても活動し、サウス・バイ・サウスウエストを初めとする数々の音楽フェスに出演。2017年のTEDフェロー、2016年のサンダンス映画祭フェロー、2016年のAdobe創造性奨学生、2016年のMIT ブロックチェーン奨学生、2016年のOculus Launch Pad Artist等に名前を並べている。現在はVRに強く関心をもち、VR作品を手がけている。

Twitter:@kaylabriet

SENSORS MC:草野絵美

草野絵美 Sensors MC:
1990年東京出身。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部卒業。元広告代理店テクノロジー専門プランナー。歌謡エレクトロユニット 「Satellite Young」として活動中。再構築された80’sサウンドに、ポストインターネット世代の違和感をのせて現代社会を歌う。スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル「New Retro Wave」からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし、2017年には「South by South West」に出演。

Twitter:@emikusano

編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。

Twitter:@obaramitsufumi

写真:小林真梨子

Twitter:@marinko5589

(2018-8-3 18:00:00)

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"本物"のクリエイターが伝えたい"良質な読書習慣"と、未来をつくる珠玉の書籍ーー平野啓一郎×落合陽一×齋藤精一

「クリエイターとコミュニティ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは作家の平野啓一郎氏だ。

全5回にわたってお届けする最終回の第5弾記事では、MCのお二人とゲストに、フィルターバブルにどう向き合えばいいのかをブレストしていただいたうえで、最後にSENSORS視聴者におすすめしたい書籍を各々に紹介してもらった。

フィルターバブルに踊らされ、情報の蛸壺に囚われてしまわないためにどうすればいいのか。そして、本質的に価値のある情報に触れていくために、どんな本を読めばいいのか。視聴者の皆さんへの具体的なアクションの提示をもって、本サロンを締めてもらった。

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(左より)平野啓一郎氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

フィルターバブルに翻弄されないために、意義のある偶発性のモデリングが必要

–続いて、テーマに沿ってブレストをしていただくコーナーです。今回のテーマは「フィルターバブルとの向き合い方」。フィルターバブルとは、検索エンジンやSNSのパーソナライズ機能が発展した結果、自分の好む情報ばかり目に入ってしまう現象のことです。”情報の蛸壺化”とも表現されますが、フィルターバブルとどう向き合うべきだと思われますか?

落合陽一(以下、落合):
家族とPCを共有することが有効だと思います。たとえば僕の場合、妻が僕のPCでオムツや野菜を注文するので、Amazonのサジェスト品目が生活感に溢れています(笑)。
平野啓一郎(以下、平野):
分かります。僕もNetflixのアカウントを子供とシェアしているので、ヒーローものばかりサジェストされる(笑)。
齋藤精一(以下、齋藤):
僕もそうです。YouTubeでアンパンマンや子供に人気のYoutuberばかり出てきます(笑)。
草野絵美(以下、草野):
「アカウントを他の人とシェアしたい」という考えを持っている複数人で共有するのはありかもしれませんね。
平野:
昔はお茶の間のテレビが子供と大人の情報共有のためのメディアとして機能していましたが、今はその機能が親子の共有アカウントによって代替されているのかもしれません。

–フィルターバブルによって自分が好む情報ばかり目に入るようになると、アメリカの”トランプ選挙”のときによくいわれたように、フェイクニュースによって社会が分断化されるリスクもあると思います。その点についてはどう思われますか?

平野:
僕は、アカデミックな世界の研究内容に、ある程度のアクセスを持っておくことが非常に重要だと思います。アカデミックとのつながりさえ確保できれば、フェイクニュースが出てきても、「それは医学的に絶対ありえない」といった風にブロックできます。
落合:
そうですね。とはいえ、アカデミックな研究内容にリーチするための語彙を持っている人が少ないから、アカデミック内外の分断がどんどん広がっている問題もあります。

多分これを解決するためには、毎朝しっかりと本を読む人を作るといった、ライフスタイル面からのアプローチが必要だと思います。ただ、さすがに僕一人ではそこまでカバーしきれません。知識人がみんなそこのサポートをするようになるのが理想的です。

–その他、フィルターバブルに向き合っていくうえで有効な手段はありますか?

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落合:
自分と対極の属性に位置するような人に積極的に会いに行ったり、そういう人に会えそうな場に参加することは有効だと思います。
草野:
最近相性の良い人とマッチングさせてくれるオンラインデートサービスが流行りですが、その逆のサービスがあっても面白いかもしれません。自分と対極の人とマッチングして、アカウントをシェアさせるとか。
平野:
あとは、オフラインでの偶発的な出会いがモデル化されて、それを誘発するようなシステムが出てくるといいですね。面白い人たちが読んだ本や行った場所についてのデータがある程度貯まれば、どういう偶然が面白い人を作り出すかがモデル化できると思うんですよ。世の中に出回っている情報が膨大すぎて、モデル化でもしないと、偶然そういった出会いに巡り会うことが難しくなってしまっています。

SENSORS MCとゲストが選ぶ、”未来”をつくる珠玉の書籍

–最後はスペシャルコーナーです。視聴者の皆さんへ、MC陣とゲストがおすすめする書籍をご紹介します。まずは齋藤さんからお願いできますか?

齋藤:
僕が推薦するのは、GKインダストリアルデザイン研究所創設者・栄久庵憲司さん著の『道具論』。この本は結構翻訳もされていて、日本で生まれたメタボリズム理論を海外に広めるなど、大きな影響力を持っています。

さっきのフィルターバブルの話にも通じますが、インターネットやデバイスなどの
定義が見直されつつある今だからこそ、「そもそも道具ってなんだろう」という話をしているこの本を読んでほしいですね。特に若い人には。

草野:
私はアメリカでベストセラーになった、アジズ・アンサリ著の『当世出会い事情』。マッチングアプリやテキストによって恋愛がどう変わってきたのかを、統計的・フィールドワーク的に分析しています。

現代のテクノロジーと人間の愛が交差して描かれていて、また日米の恋愛に感する価値観の違いが分かります。単純にルポとしても面白いので、是非SENSORS視聴者の皆さんに読んでほしいです。ちなみに私はこれをテーマに曲も書きました(笑)。

落合:
僕は最近書いた『デジタルネイチャー』。自分で書いた本を自分でおすすめするのは、自分の曲をかけるDJみたいですが(笑)、注釈から何まで非常にこだわっているので、是非読んでほしいです。例えば「ヒト」、「人間」、「人類」、「人」それぞれにキャプションがついてたりします。

あとはこれを書く際に大いに参考にした、グレゴリー・ベイトソンの『精神と自然』もおすすめです。我々の社会では、「精神」はもはや人間の精神だけではない、といったことを論じている思想書です。こういった思想書を17世紀頃のものから読み漁ったうえでコードを書くプログラマーがもっと増えてほしいですね。

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平野:
僕は、大江健三郎さんの『死者の奢り・飼育』がおすすめ。大学生時代に書かれた作品なんですが、ザ・文学といった感じの初期短編集です。言葉の密度・緊迫感が桁違いで、いまネット上で流通している言葉とは全然違います。あまりにすごすぎて、読むたびに自信を失いますね(笑)。

この言葉の先に広大な文学の世界が広がっていってることを体験して、打ちのめされてほしい。特に20代の方とかだと、「自分と同い年でこんなものを書ける人がいるのか」と打ちのめされて、良い意味で謙虚な気持ちになれると思います。これからまた頑張ろう、って。

「一億総クリエイター時代」と言われるようになって久しい。ブログやSNS、動画サイトなどで、誰もが手軽に作品を生み出し、発信できるようになった。

その結果、本当に豊かな文化が生み出されたのだろうか?検索エンジンの評価だけを気にかけてコンテンツを量産するキュレーションメディアは一向になくなる気配がなく、SNS上でも「いいね」の数を稼ぐためのフェイクニュースが蔓延っている。

しかし、品質が担保されていなくても誰でもクリエイターを自称できるこの時代だからこそ、”本物”の価値が高まっていることもたしかだ。”偽物”ばかりで溢れかえる世の中だからこそ、”本物”に出会えた時の喜びも大きい。

今回ゲストにお招きした平野啓一郎氏、そしてMCの3人は全員、ジャンルは違えど真摯かつハイレベルに作品づくりに向き合っている”本物”だ。今回のディスカッションから、本物のクリエイターをもっと世の中に増やしていくためにはどうすればいいのか、そのヒントが垣間見えたのではないだろうか。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(落合陽一が今”オススメしたい本”は?ゲスト:平野啓一郎)

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。

Twitter:@masakik512

編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。

Twitter:@obaramitsufumi

(2018-7-31 18:00:00)

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思想・哲学が力を失ったいま、メディアが伝えるべきことは"問いの立て方"だーー平野啓一郎×落合陽一×齋藤精一

「クリエイターとコミュニティ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは作家の平野啓一郎氏だ。

全5回にわたってお届けする第4弾記事では、インターネットにおける分散化時代においてメディアに求められる”集約”機能、そして昨今の出版業界の課題について議論してもらう。

前半では、難解な書籍と格闘する体力が失われたいま、メディアにはかつての思想・哲学が担っていた”問いの立て方”を伝える機能が求められている点を議論する。後半では、デジタル化に向けたトライアンドエラーと、”喋り口調”の本への注力という、今の出版業界に求められる2つのトピックについて語ってもらった。

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(左より)平野啓一郎氏、齋藤精一、落合陽一

思想・哲学が廃れたいま、メディアは”問いの立て方”を伝えるべきだ

–続いてのトピック「視点の分散化と、メディアの集約」についてディスカッションをお願いします。

齋藤精一(以下、齋藤):
インターネットの大きな功績のひとつに、マイノリティ同士がつながれる”分散化”の実現があると思います。

でも音楽や小説も含めた広い意味での”メディア”って、マジョリティを作っていく”集約”機能を持つものじゃないですか。みなさんは”分散”の時代におけるメディアの役割について、どう考えていますか?

平野啓一郎(以下、平野):
表現活動をしていくうえで、自分の仕事が同時代や後世にどのくらい影響を与えるのかは意識していますね。

たとえ100万部売れたとしても全国民の1%にしか読んでもらえないことになりますが、それが100年後まで読まれ続ければ巨大な影響力を持ちます。文学者同士のつながりも、40人のクラスに1人しかいないようなマイノリティの集まりに過ぎないですが、世界中でつながれば結構な影響力になる。

齋藤:
2000年代以降、勢いのある思想・哲学が出てこなくなった気がするんですよね。かつての思想・哲学が果たしていた役割を、強力な思想を持ってメディアを作っていくことで代替すべきなのではないかと思っています。
平野:
やっぱり情報過多なのが問題です。コンテンツの供給ペースが早すぎて、集約的なトレンドを作っていくのが難しい。だからこそ、影響力のある人は、しっかりとした根拠に基づいて「今これを読むべきだ」と思想表明すべきだと思います。
落合陽一(以下、落合):
最近出した新著『デジタルネイチャー』が完全に思想書なのですが、実際に出版してみて、Amazonレビューに”1か5の評価”しかついていないことに驚きました(笑)。「一文字も分からないから評価1」という人と、「すごく面白かったから評価5」という人に綺麗に分かれています。

そうしたことから、「読むのに体力が要る本を体力を使って反芻しながら読む習慣が廃れてしまったんじゃないか」と感じています。結局いまバズっている本も、体力を使わずに読める本がほとんどです。でも、体力を使って読んだからこそインストールされるものもあると思うんですよ。だから『デジタルネイチャー』は、読む体力を取り戻してほしいという想いも込めて書きましたね。

齋藤:
僕は古い思想書が好きなんですが、なぜ好きなのかというと、読めば読むほど分からないからなんですよね。「ドゥルーズは何を言おうとしてたんだろう」とか、「エントロピーって何なんだろう」とか、はっきり言って答えはないじゃないですか。けど答えがないものと格闘するからこそ、自分なりの考えが形作られていく。そういう読み応えのある作品って、思想がないと生まれないと思うんですよね。
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平野:
答えではなく、問いの立て方を教えてくれる本は良い本だと思います。読者の中に渦巻くぼんやりとした感覚に対して、適切な問いを提示することで、考える道筋をディレクションしてくれる本。

あとは、人間の脳の報酬系の観点からみても、難解な本を読むのは楽しいと思います。フィジカルな山登りの気持ち良さがVRでは完全に代替できないように、疲れながら難解なものを読んで、ドーパミンやアドレナリンが出た時にだけ味わえる快感があるのです。

今の出版業界に必要なことーーデジタル化に向けたトライアンドエラーと、”喋り口調”の本への注力

–続いてのキーワード「出版業界の課題」に移らせていただきたいです。いま、出版業界にどんな問題提起をしたいですか?

平野:
業界にいるだけに、難しいですよね(笑)。それでもあえて問題提起をするなら、デジタル化に向けてのディスカッションやトライアンドエラーが不十分な点を提起したいです。

たとえば小説に限っても、きちんとデジタル化が成功しているのってアメリカぐらいなんですよ。ヨーロッパも中国も、特に中国なんてあんなにIT化が進んでいるのに、紙の影響力が絶対的です。この前上海に行った際も、数日の滞在期間で1,000冊ぐらいの本にサインを求められて驚きました。

この状況下で一気にパラダイムシフトを起こすのは難しいので、まずは一部領域だけデジタル化させたうえでそれを全体に敷衍するといった、地道で着実なハンドリングが求められると思います。

草野絵美(以下、草野):
落合さんは多数本を書かれていますが、出版業界についてどう思われますか?
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(左より)落合陽一、草野絵美

落合:
喋り口調の本が売れる傾向にあるのは新しいなと思っています。本来喋り言葉って、粗も多くて反芻に向いていないはずなのですが、そういった文調で書かれた本が売れている。

これはラジオのような音声メディアの勢いが増しているのとも関係すると思っています。たとえばこの番組の録画も、意外と通勤途中にラジオ代わりに聞いている人が多いみたいなんですよね。そもそもビジネス書の普及に伴って世の中には喋り口調の本が増えたと思うのですが、それを補完するための動画や音声メディアが広がって、さらに相補作用で喋り口調の本が売れているのは面白い。

これは出版業界の新しい勝ち筋になるのではないでしょうか。喋りが面白い人の喋り言葉が読みたくて本を買うって、今まであまりなかったと思うので。

平野:
講演とかも、動画だけ公開するよりも、文字起こしした記事をつけた方が見られたりしますよね(笑)。動画の方がストレスが少ないと思っていたのですが、文字起こしがあった方が面白そうな箇所だけ重点的に聴けて好まれるみたいです。
草野:
私も最近よくPodcastやオーディオブックを聴くんですが、ランニングや読書と並行して聴けるところに魅力を感じています。時間を有効活用できている気がするので。

続く第5弾「”本物”のクリエイターが伝えたい”良質な読書習慣”と、未来をつくる珠玉の書籍」では、MCのお二人とゲストに、フィルターバブルにどう向き合えばいいのかをブレストしていただいたうえで、最後にSENSORS視聴者におすすめしたい書籍を各々に紹介してもらった。

フィルターバブルに踊らされ、情報の蛸壺に囚われてしまわないためにどうすればいいのか。そして、本質的に価値のある情報に触れていくために、どんな本を読めばいいのか。視聴者の皆さんへの具体的なアクションの提示をもって、本サロンを締めてもらった。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(落合陽一のamazon購入履歴はオムツと野菜?ゲスト:平野啓一郎)

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。

Twitter:@masakik512

編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。

Twitter:@obaramitsufumi

(2018-7-24 18:00:00)