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企業とイノベーションの「今」を読み解き、未来をつくる、デザインの視点【RCA-IIS Tokyo Design Lab マイルス ペニントン教授インタビュー】

東京大学生産技術研究所(IIS)、英国の王立美術大学Royal College of Art(RCA)、博報堂ブランド・イノベーションデザイン、株式会社SEEDATAの四者は2018年6月から、デザイン・リサーチ・プロジェクト「Foresight Project “Future of Luxury”」をスタートさせています。

2016年末に東京大学生産技術研究所(IIS)とRCAが共同で立ち上げた、RCA-IIS Tokyo Design Labでは、デザインの力で、最先端のテクノロジーを社会に実装可能なイノベーションとして展開することを目指して活動してきました。

本プロジェクトでは、東京大学生産技術研究所が持つ先端技術研究と、数々のイノベーションを創出してきたRCAのメソッドによってアイデア開発を行います。そして、博報堂・SEEDATAによる生活者発想・未来発想を起点としながら、デザイン思考のプロトタイピング力で新しい未来像を描き出すことを目的としています。

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今回は、長年RCAで学科長として教鞭を執り、2017年9月から東京大学生産技術研究所に教授として着任した、マイルス ペニントン教授にこのプロジェクトへの思い、未来における企業とデザインの関わり方について聞きました。

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マイルス ペニントン教授。RCA-IIS Tokyo Design Lab内にて。背後にあるのは「思いついたらすぐにプロトタイプをつくるための工房」。各種工具や3Dプリンターなどが揃う。

【企業のオープンプラットフォームを実現する】

――RCA-IIS Tokyo Design Labは、東京大学生産技術研究所とRCAとのコラボレーションによるデザインプロジェクトですが、どのようにして生まれたのでしょうか?

マイルス:RCAはサイエンスとテクノロジー、そして工学における繋がりを戦略的に強化しようと考えてきました。それが「Global Design Labs」と呼ばれる構想です。世界中に小さなラボを持ち、RCAのグローバルな視点を活かしながら地域の課題にアプローチしようと考えていました。

この構想が日本で実現したものがRCA-IIS Tokyo Design Labなのですが、キーパーソンとなってくれたのはRCAの客員教授であり、私の友人でもある、デザイン・ イノベーション・ファーム「Takram」代表の田川欣也氏でした。彼が私と東京大学生産技術研究所の山中俊治教授を引き合わせてくれたのです。その出会いは運命的でした。
山中教授は「Design-Led X」という、デザイン思考を取り入れた教育や研究を推進する試みをスタートさせていました。対する私は、まさに東京大学生産技術研究所が持っているサイエンスとテクノロジー、そして工学との繋がりを求めていた。
東京大学生産技術研究所の魅力は、その活動領域です。ミクロな世界は量子レベルまで、マクロな世界は宇宙レベルまでの対象を研究する部門を持ち、工学系であればほぼすべての分野を扱っています。
お互いに求めているものがぴたりと一致し、生まれたのがRCA-IIS Tokyo Design Labだったのです。

――RCA-IIS Tokyo Design Labは、今回の博報堂とのデザイン・リサーチ・プロジェクト「Foresight Project “Future of Luxury”」にどのような期待をしていますか?

マイルス:RCA-IIS Tokyo Design Labの核心は、デザインを用いてサイエンスからイノベーションを生み出すことです。そのためには、いわゆる実社会、産業界、そしてアカデミアという普段は異なる世界にあるものを結びつける必要があります。それゆえ、RCA-IIS Tokyo Design Labは、大学のプロジェクトということもあり、この三者に対し中立的な立ち位置を保っています。

このプロジェクトの魅力は、そうしたRCA-IIS Tokyo Design Labの特性を活用し、企業に対しリサーチのためのオープンプラットフォームを提供できることです。
普段は競合にあたるような企業が同じテーブルでディスカッションし、コラボレーションしなければならないことも生じてきます。
実社会では、企業はその機密を守るため、互いに協働することは難しいですよね? しかし企業の垣根を超えたコラボレーションが時にイノベーションを創出することもある。
企業間で知見を共有することも、時には損失でなく利益につながる可能性があることを、この場所、そしてこのプロジェクトを通して感じてもらえることを願っています。

――このプロジェクトは、ある意味ではRCAの教育に似ています。RCAでは非常に多様な人々が集まっていると聞きました。デザインのバックグラウンドを持たない人、たとえば会社員のような人もみな、デザイナーとして学んでいますよね。

マイルス:そうですね、私たちは「違いが違いをもたらす」と言っています。多様で互いに異なる人が集まる環境が、他と異なる、新しいアイデアを生むという意味です。それがイノベーションにとって重要だとRCAでは考えられているのです。

よってRCAでは多様なバックグラウンドを歓迎しています。心理学の学位を持つ人、工業デザイナーとして10年の経験を持つ人、大学を卒業したばかりのエンジニア、みんなが同じテーブルでデザインを学びます。
彼らにグループワークで課題を与えると、それぞれにバックグラウンドが異なるため、詳しい人とそうでない人がいます。そこで学び合いが生まれるのです。私は、RCAの生徒たちの学びのうち80%がこうした学び合いによってもたらされていると考えています。

【未来のデザイナーは企業の「意思決定者」になるべき】

――未来において、デザイナーが果たすべき役割とは何でしょうか?

マイルス:企業の中にいるデザイナーが、企業の意思決定に関わる役割を果たすようになることだと思います。つまり、デザイナーが取締役会に出席するような存在になるということです。
たとえば、あなたが製造業に関わる企業を経営していたとして、洗練されたデザインがビジネスの成否を左右する局面に出くわしたとしましょう。その企業の取締役会のテーブルにデザイナーが居なかったら、困りますよね?

ごく一部の企業では、デザイナーは Chief Design Officer という役職に就任し、取締役会レベルで意思決定に関わっていますが、こうした動きがより活発化すべきだと考えています。また日本では、デザイナーが企業内で意思決定者層にいることは非常に珍しいことだと思います。

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――どうしてデザイナーはこれまで意思決定に関わる役割を、企業、さらには産業界で担うことができなかったのでしょう?

マイルス:ひとつは私たちのようなデザインコミュニティの責任です。デザインの地位を高めることに成功してきたとは言えないと思います。なぜならデザインは、いわゆる企業戦略における最重要事項として、まだまだ認識されていないからです。状況は変わりつつありますが、もっと急速に変化していくべきだと私たちは考えています。

また、私は教育にも問題があると考えています。歴史的に見ても、デザインがアカデミアにおいて高い地位の科目であったことはありません。この地位を高めるためには、より優秀な人々がこの分野に流入することが必要です。

これらの状況を打開するため、企業や社会において、重要な意思決定に関わるデザイナーがより多く生まれていく必要がある。そうして、この分野をより野心的なものにすることが求められます。しかしこれがデザイナーには非常にチャレンジングなことなのです。
デザイナーはつくることを愛するものです。自分の手で、プロダクトやサービスをつくりたいわけです。しかしマネジャーやディレクターなどの高い地位の役職に就くと、それができなくなりますよね? デザイナーの「デザインする」ことへの愛が、企業や産業界といった広い視野で自分のクリエイティビティを捉え、それらに影響を与え、自らの地位向上を図るための戦略的な機会を得ていくことを阻害してしまうのです。まったく皮肉な現実ですね。

今後は政府の機能中枢にもデザイナーが求められるべきだと私は考えています。洗練されたデザインの考え方を持たない政府が、良い政治を生み出すことが想像できないからです。政策立案などのプロセスの中で、デザインの原理に基づいたクリエイティブなプロトタイピング、テスト、そして人間中心のアプローチが用いられることは重要なことだと考えています。

【デザイン思考は魔法の言葉ではない】

――企業の中でデザイナーがより高い地位につくべきだという問題提起がされましたが、現在、少なくない企業が、デザインをイノベーションにおける重要な要素と考えるようになりました。人々や企業が今、そのビジョンや事業計画にデザインを必要としているのはなぜだと思いますか?

マイルス:私は成功する企業というものは、すべからくイノベーションのマインドを持っているのだと思います。つまり、常に変化し、すばやく新しいアイデアを見つけ、世界で競争する欲望と態度(願わくば、倫理的なアイデアも)を持っているということです。
そうしたイノベーティブな企業がデザイン思考を求めるのは自然なことだと思います。デザインが根本的に持っている信条を言葉にすれば、それは新しいものを着想する創造性だからです。

ただ、弊害も生まれていることは事実です。昨今、デザイン思考はある種の魔法の呪文のようにとらえられているところがあります。
たとえば「この5ステップで、私たちは素晴らしいプロジェクトを生み出すことができる」といった、お手軽なプロセスでイノベーションを生み出すことがデザイン思考にはできると思われているところがある。
しかし、デザインに携わるすべての人が、デザインを画一化されたプロセスとして単純化することはできないことを知っています。そして少なくないデザイナーが、こうしてブームのように流布されるデザイン思考という言葉に懐疑的です。
洗練されたデザインは、洗練された信条によってのみ生まれます。表面的なプロセスを導入してもうまく機能しないのです。

――デザイン思考を正しく機能させるためには、どのようなことが必要なのでしょう?

マイルス:そもそもRCAの講義においてデザイン思考を扱うことはありません。
デザイン思考というものは、デザインを、デザインに携わる以外の人々に紹介するために非常に有効な手段だということです。だから私たちは外部向けのワークショップを行う場合、適切に用いることがありますが、RCAで「それでは、デザイン思考の講義をはじめましょう」となることはありません。講義では、互いのデザインのプロセスについて発表し合い議論を重ねます。

デザインを正しく機能させるためには、デザインにおける正しい信条、態度を学び、そして何よりも、実際に創造を行うことが必要です。それはいわゆる、流布されたデザイン思考のように簡単なことであり得るはずがありません。
世間でもてはやされているデザイン思考の問題は、過度に単純化されているということなのです。

【イノベーションなき大企業が直面する未来】

――日本の多くの大企業はイノベーションを求めています。しかし、彼らはみな、かつては非常に野心的でイノベーティブなスタートアップであったことも皮肉な事実かもしれません。この逆説的な状況を脱するために、今の企業には何が求められていると思いますか?

マイルス:そのとおりですね。「現在の日本の企業はイノベーティブな起業精神を忘れ去ってしまった」と嘆く人もいます。
私から言えることはふたつあります。ひとつは、私はそうした状況に直面している日本の企業に対し、RCA-IIS Tokyo Design Labの活動を通し、教育の面から新しいイノベーションの考え方を提供したい。そのために私はここにいるということです。

もうひとつは、これはあまり良い言い方ではないのかもしれませんが、これから私たちは目の当たりにしていくかもしれません。イノベーションを起こせない大きな企業が、小さいながらもイノベーティブなスタートアップにこてんぱんにやられてしまうことを。
歴史を振り返っても、イノベーションを起こすことが出来なかった企業は消えていく運命にあります。それらは企業ではなくなり、それらの代わりをするものが生まれていく。それは肯定的に捉えれば、新陳代謝でもあるわけです。

もちろんこの質問に対し、何が正しい答えなのかは分かりません。ただ一つ言えるのは、考えて行動するための時間はあまり残されていないということかもしれません。そして日本には十分な危機感もまた無いように感じます。

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IIS、RCA、博報堂ブランド・イノベーションデザイン、SEEDATAの四者は、Foresight Projectによって、日本の大企業の方々と協業し、イノベーションを推進していきます。

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そのための最善策の一つとして、IISが先端技術を、RCAが様々なダイバーシティを持ったデザインの視点を、博報堂・SEEDATAが生活者発想・未来発想を持ち寄り、協業すること。そしてイノベーションを起こすためには、多様な大企業の方々が、私たちと同じテーブルを囲むことが必要不可欠であると信じています。このテーブルから、共に大きな挑戦をしていきましょう。

マイルス ペニントン教授

1992年Royal College of Art(RCA)イノベーション・デザイン・エンジニアリング(IDE)学科を修了。1993年より来日、セキスイデザインセンター(大阪)勤務。1997年、英国にてデザインカンパニー「Design Stream」設立。2009年、RCAの IDEプログラム学科長に就任。2013年より新設のGID(Global Innovation Design)プログラム学科長を兼任。2017年、東京大学生産技術研究所の教授に就任。

執筆:森 旭彦 (もり・あきひこ) AKIHICO MORI

2007年からフリーランスのライターとして活動。サイエンス、テクノロジー、アートに関する記事をWIRED日本版、Forbes Japan、MIT Technology Reviewほか、さまざまなメディアに寄稿している。

最先端のサイエンスやテクノロジーと現代のコンテクストを、インタビューを通し伝える記事を多数執筆している。

近年はメディア・アートへの関心から、オーストリア・リンツにあるアートセンター「アルスエレクトロニカ」に関する記事を執筆している。AETI(Ars Electronica Tokyo Initiative)の活動にも関わっている。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。

関連記事(外部リンク)

東京大学生産技術研究所RCA-IIS Tokyo Design Labとつくる、イノベーションの工房
テーマは「Future of Luxury」

https://www.hakuhodo.co.jp/archives/column/55747?fbclid=IwAR1QySc6g9z1nWQE87x32sFUHpMiBdDNWGMfS3lOGjGGssxQUxUPxKXlzd8

(2019-4-24 08:00:00)

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時代の転換期に、言葉は再定義されていく。"令和"時代の「働き方・遊び・教育」–落合陽一×齋藤精一
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(左から)齋藤精一、落合陽一、草野絵美

国内外の広告賞にて多数の受賞歴を誇るトップクリエイター・齋藤精一、世界でもっとも注目される日本人研究者・落合陽一、海外にも根強いファンを持つ歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」を主宰する草野絵美—-各界を賑わす3名をMCに毎月ゲストをお招きしてきたSENSORSサロンのシーズン4。

番組を締めくくる最後のテーマは「新時代の働き方・遊び・教育」。過去の番組で取り上げてきたキーワードを手がかりに、SENSORS編集長の長谷川リョーがインタビュアーを務め、齋藤氏と落合氏に令和時代の未来予測を伺った。

「次の時代には、コミュニティが強くなるのではないか」と語る齋藤氏は、独自の経済圏やエコシステムの構築が予兆されるコミュニティの可能性を考察する。一方で落合氏は「ライゾマティクスや僕の真似をしても、同じような人は生まれてこない」と指摘し、日本の未来や自身に対する展望を語った。

テクノロジーの最先端で活躍する二人の目には、次の時代がどう映っているのか。激動の時代「平成」の振り返りとともに、白熱した議論が行われた。

「レペゼン地球」のDJ社長に学べ。ワークアズライフを体現する新時代の働き方

長谷川リョー(以下、長谷川):最初のテーマは「新時代の働き方」です。落合さんはよく「ワークアズライフ」といったキーワードを提唱されていますが、そうした新しい働き方の社会への浸透具合や動向について、どのようにお考えでしょうか。

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落合陽一(以下、落合):ワークアズライフ以上に、最近僕のなかでは「セミパブリック化」がキーワードになっています。所属がバラバラになることは、コーポレートガバナンスやポリティカル・コレクトネスに対する責任が個人にも問われていくことも意味しています。パブリックとプライベートを切り離さずに、みんながゆるく連帯し、利益やリスクをシェアする空間をどうやって回復していくのか。最近よく考えているんです。

長谷川:過去の放送では「働き方の量子化」というキーワードも出てきましたが、齋藤さんは新時代を見据えて、この言葉に何かアップデートが見られると思いますか?

齋藤精一(以下、齋藤):「働き方の量子化」は、進行している実感がありますね。所属に左右されず、スキルセットや志向性が合う人同士でプロジェクトを行うケースが、世の中にどんどん増えてきている。

「何に興味があり」「何ができるのか」のタグづけは、インターネットによって可視化されてきました。今後も、「組織ブランド・ドリブン」ではなく「個人・ドリブン」に仕事をする流れが、加速していくと思います。

長谷川:「個人・ドリブン」に仕事をする人が増えていくなか、面白い働き方をする具体例として注目している人はいますか?

落合:アーティスト「レペゼン地球」のDJ社長は面白いですね。”オールドエコノミー”や”オールドメディア”といったものを気にせず、イノベーティブに生活スタイルを変えているところがいいなと思いました。独自の経済圏をつくることで、他者からの関与を受けないコンテンツ発信を体現されています。

齋藤:名前を挙げたい方がいるというよりも、僕みたいな旧世代と新世代の間にいるような人たちがどう考えているのかに興味がありますね。働き方改革や医療規定の見直しなど、時代とともにルールが変化していくなかで、世の中をどのように捉えていくのか。住居、教育、ビジネス…変わらずに存在するコンセプトがどういった動向にあるのか、個の働き方よりも、集団で捉えたときの動きに注目しています。

長谷川:先ほど、「オールドエコノミー」がキーワードのひとつに挙がっていましたが、このような旧来型の仕組みにはどう向き合っていくべきなのでしょうか。

落合:これまでの仕組みにとらわれる必要はないです。たとえば、クラウドファンディングでモノやお金を集めたり、サブスクリプション型の新しい課金スタイルつくったり、個の力に左右されず、コストをほとんどかけずに新しい仕組みをつくりやすい社会になっているはずです。

齋藤:僕は昭和生まれの人たちの役割として、旧来の経済やインフラによってできた負債を、どう解消させていくかを考えていかなければいけないと思っています。以前、番組の地方創生回でも、「住民票のあるところに税金を落とすのはおかしくないのか」と話し合ったこともありましたが、そのような大きな仕組みから疑っていくことで、新しい経済圏や働き方が見えてくるのではないでしょうか。

時代の転換期には、私塾が勃興してきた。「コミュニティ」ブームは一過性か?

長谷川:次の話題に移ります。ここまで「ワークアズライフ」における仕事の側面をお聞きしてきました。AIによって単純労働が代替されていくと、人間の余暇が増えていくといった予測もされていますが、「遊び」についてはどのように再定義されていくと思いますか?

落合:僕は、「ポジティブなストレスの度合い」で決まるものだと考えています。適度にストレスがかかっていないと「遊び」になりませんし、ストレスが溜まりすぎると「遊び」の域から外れてしまいます。

経済的合理性から考えると、番組スタッフからは僕がいま働いているように見えるかもしれませんが、僕の経営する会社のスタッフからは遊んでいると思われるかもしれない。立場や考え方によって、遊びの定義は変わりますよね。

齋藤:僕は、オフラインになったときの「ノンストレスさ」に興味を持っています。スマホは便利な反面、常に通知が入ってくるので、実はストレスも大きいはず。空を見ることや歩くことなど、ネットから離れているときに余暇を感じている方々も多いと思うんですよね。

長谷川:エンターテイメントの世界は、どのように変わっていくのでしょう?

落合:いまでも一般的な話かもしれませんが、「パーソナライズ」していくと思います。

齋藤:見たこともないものを体験するハードルは低くなっており、個々が体験するエンターテイメントは、時代とともに進化してきています。ですが、オフラインならではの喜びや楽しみがなくならない限り、野球場やサッカースタジアムに応援しに行くなど、物理空間にみんなで集まって体験すること自体は残っていくと思うのです。リアルを介さないエンターテイメントは、興味がないことや苦手なことの入り口として機能するかもしれません。

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長谷川:過去にSENSORSでは「コミュニティ」をテーマにしたことがあります。近年、急激に浸透してきた概念のようにも思いますが、この流れは一過性のものなのか、今後も継続していくのか、どうお考えでしょうか?

落合:これまでも時代の転換期には、私塾のようなコミュニティが増える傾向がありました。僕は明治時代を例に話すことが多いですが、コミュニティが勃興する背景には、外の荒波から耐え凌ごうという考え方があるのだと思います。ゆるく連帯したい人たちが集まって、建設的なことを話し合ったり実行したりする欲求は、今後も変わらず残っていくのではないでしょうか。

齋藤:コミュニティが強くなっていく時代なのかもしれませんね。同じようなスキルや思考をした人たちが一箇所に集まることで、独自の経済圏やエコシステムをつくることができれば、部族的な連帯もより強まるはずです。

時代性と環境が偶然マッチしたとき、”次の落合陽一”が生まれる

長谷川:最後のテーマは、「教育」です。番組では以前リーダーシップをテーマに議論していただきましたが、改めて、世界を牽引していくビジョナリストや次世代リーダーを日本で育てていくためには、どのような環境を整備していくべきだと思いますか?

落合:混沌としているけれど、資金に余裕があり、応援してくれるフォロワーがつきやすい社会にすべきだと思います。やる気がある人を排除しない世界になると良いですよね。

長谷川:“ネクスト落合さん”のようなイノベーティブな人材は、どのような環境から出てくるのでしょうか?

落合:もちろん教育による貢献もあるとは思いますが、時代性と環境が、偶然マッチする必要があると思います。たとえば、ライゾマティクスや僕のやっていることをそのまま真似ても、同じような人は生まれてこないはず。次の世代の人は、次の時代性から出てくると思うんです。

齋藤:同じような思想をもった人だけを輩出することが、必ずしも正解ではなくて。挑戦や失敗を許容する環境が用意されるべきです。干渉はするけど、混沌としている。そんな状態がいいのかもしれませんね。

長谷川:とはいえ、義務教育が変化しない限り、厳しい面も多分にあると思います。以前落合さんは「元号が変わることによる効果は、意外と大きいのではないか」とおっしゃっていましたが、教育システムはどのように変わっていくべきなのでしょうか?

落合:変わる必要はないと思います。変化を強要しようとすると、一過性のブームで終わってしまう。それよりも、足の引っ張り合いが起きにくい社会をつくることが重要なんです。

長谷川:最後に大きな問いとなりますが、新元号ではどのような「時代を代表するテーマ」が出てくると思いますか?

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落合:僕の場合、20年単位のテーマとして「デジタルネイチャー」を挙げていますが、今年のテーマは「質量」だと思っています。個展やオーケストラの演奏を手がけていたのは、まさにこのテーマを体現しています。

齋藤:僕が注目しているのは、テクノロジーの発展に対する揺り戻しです。次の時代では、デジタル環境やインフラの急激な発達から一転して、波風がおさまってくると思います。そうしたときに、「幸せ」や「余暇」といった言葉の再定義が始まる気がしているのです。

長谷川:ありがとうございます。プロゲーマーのときどさんをお招きした番組回からスタートし、各分野のトップランナーとともにお届けしてきたSENSORSシーズン4。新しい概念やキーワードが出てくることも多く、数多くの刺激的なトークが展開されてきました。

1,2年後に見返して、新たな発見や実社会との照らし合わせをしていただけると嬉しいですね。落合さんと齋藤さん、約1年といった長丁場のなか、本当にお疲れ様でした。

平成が終わりを迎え、ビジネス、テクノロジー、カルチャーなど、各分野で”ゲームチェンジ”が起きようとしている。これまで『SENSORS』では、新時代の”指針”となるべく、最先端で活躍する起業家、研究者、クリエイターをゲストに、最先端のクリエイティブ、テクノロジー、エンターテイメントを紹介してきた。

来たる令和時代、新たなムーブメントはどこから生まれてくるのか。「ライブエンターテインメント」、「FinTech」、「ブロックチェーン」…番組で扱ったテーマやキーワードが、新元号の幕開けとともに現実社会を大きく揺るがす日もそう遠くないであろう。

社会のルールや言葉の定義が変化していくなか、MCの落合陽一や齋藤精一を含め、SENSORSに登場したトップランナーの声明が新時代の手がかりになるとしたら、制作陣ともども喜ばしい限りである。

執筆:川尻疾風

1993年生まれ、同志社大学卒。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。

Twitter:@shippu_ga

(2019-4-23 10:00:00)

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お金よりも社会的価値、失敗は経験値。"僕たち世代"が求める正義について–ミラティブ 赤川隼一×nommoc 吉田拓巳
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(左から)吉田拓巳氏、赤川隼一氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「次世代経営者」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストには、総額35億円の大型資金調達を達成し、”NEXTメルカリ”として注目を集める企業ミラティブの代表・赤川隼一氏、若干23歳にしてこれまで数々のサービスで話題となり、最近では運賃無料の配車・運行サービスnommocをリリースして話題を集めた若手起業家・吉田拓巳氏の2名をお招きした。

前後編の2本立てでお届けする後編では、番組でも大いに盛り上がりを見せた「お金の扱い方」「日本が世界で勝てる領域」「失敗の乗り越え方」の3つのテーマを取り上げる。

「お金よりも、やりがいを大事にしたい」と語る赤川氏は、年俸の高い企業よりもスタートアップの方が人材を集めやすい時代になっているのではないかと考察する。一方で吉田氏は”不確実な挑戦に寛容ではない日本社会”の問題点を指摘し、「失敗か成功で考えず、経験値ベースで物事を判断する」自論を展開した。

社会が求める在るべき姿や人としての価値観がラディカルに変化する現代、次世代経営者たちはどのような思考で社会に価値を提供し、事業を展開しているのか。シーズン最終回を締めくくる白熱の討論をお届けする。

“僕ら世代”が仕事に求めるのは、お金じゃなくて「青春」なんだ

草野絵美(以下、草野):それでは続いてのテーマ「お金の扱い方」について話していきたいと思います。

落合陽一(以下、落合):世代によって異なる価値観の一つに、お金の扱い方があると思っています。僕らより上の世代だと、お金が欲しくて起業した人がたくさんいました。お金を稼ぐことがかっこいいと思われていた時代です。

しかし、今は価値観が変わってきているなと。ちなみに僕はお金に興味がなく、社会が潤滑に動いていくことの方が重要だと思っています。赤川さんも、吉田さんも、あまりお金に興味がないように見えますが、いかがでしょうか。

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赤川隼一(以下、赤川):お金よりも、やりがいを大事にしたいと思っています。年収が900万円を超えると、幸福度は年収といっさい比例しなくなる”900万円の壁”があるとよく聞きますが、自分の経験上も同じ感覚です。

そうした点を鑑みると、今は年俸の高い企業よりもスタートアップの方が人材を集めやすい時代だと思います。もちろん「ストックオプションを保持していっしょに夢を見る」といったことは重要で向き合っていますけど、それは”青春感”というか、”部活感”というか、一体感を作って、企業の成長と個人の報酬をフェアにリンクさせるツールと捉えています。年収だけにフォーカスすれば必ずもっと稼げるメンバーに「選んでもらう」ためには、報酬以上に、やりがいが重要と感じています。もちろん、経営者として、金銭的にも必ずフェアなオファーをするようにしていますが。

吉田拓巳(以下、吉田):以前はよく、仕事には「食べていくために」といった接頭語がついていましたよね。僕自身、上の世代の方から「それで食べていけるのか?」ということもよく言われていました。

齋藤精一(以下、齋藤):お金の価値観自体が、ラディカルに変わってきていますよね。僕が会社を立ち上げたときは、「事業の失敗は許されない」と考えられていた時代でした。

なので、キャッシュフローを担保するために銀行との関係構築をして…。という、経営のいろはの「い」から学んでいました。ライゾマティクスはアーティストが集まって、「最低限生活を担保しながらビジネスを広げていこう」というスタイルからスタートしています。ITバブルの当時からしたら、珍しい会社だったと思います。

とはいえその感覚も、今となっては当たり前の価値観です。「ものを作りたい」というモチベーションをどれだけ持ち続けられるかが重要で、そうでなければ、結果的にプロフィットがついてこないと思っています。

「ハイコンテクストなコミュニケーション」はアジアの強み。世界に広がる日本文化のポテンシャル

草野絵美:それでは、次のテーマに参りましょう。赤川さんも、吉田さんも、これまでにないビジネスを展開されています。お二人が考える「日本が世界で勝てる領域」について、お伺いさせてください。

赤川隼一:ミラティブが事業を展開するアバターコミュニケーション領域はまさに、日本がグローバルで勝ちやすいと思っています。ハイコンテクストなコミュニケーション文化は、単一民族国家や東アジアに強みがあります。世界で初めてメッセンジャーサービスを提供した「KakaoTalk」は韓国発ですし、今では世界の共通言語となった”Emoji”も日本が発祥です。世界を席巻する「TikTok」を展開するByteDanceも中国の企業ですよね。

「Mirrativ」が行うアバターコミュニケーションは、Twitterで複数アカウントを運用するのが当たり前といった、日本人特有の「八百万の神」的な死生観を表しています。つまり、極めて日本的な文脈です。一方で、セカンドライフから映画「レディ・プレイヤー・ワン」まで、変身願望自体はグローバルで表現されてきている。これまでの流れを鑑みるに、世界に広がっていくポテンシャルがある領域だと思っています。

昔は、人種が異なる者同士で構成されている国では、ハイコンテクストなコミュニケーションが成立しませんでした。しかし今や、誰もがスマートフォンを持つ時代です。ベースとなる知識やコンテクストをほとんど全ての人が入手できるので、極論”Emoji”だけでも会話ができます。

世界がどんどん単一民族国家化している時代背景と、人類普遍の欲求である変身願望が掛け合わされば、アバターコミュニケーションは世界に浸透する可能性があると思っています。

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吉田:日本人は「”非”言語化する能力」が極めて高い人種ですよね。まさに、コスプレが代表例です。この「美しい」「可愛い」といった言語にとらわれない感覚は、世界に通用するポテンシャルがあると思っています。

とはいえ、大多数が「いけるぞ」と言わない限り、挑戦できないのが日本社会。不確実な状態でも世界に挑戦できる環境ができてほしいです。

落合:日本発のサービスは、いつも「少し早い」んです。成熟するまでのスピードが早いのですが、そのまま海外の壁を超えられずに終わってしまうケースも多いと思っています。日本の中で成熟しきってしまうと世界に広がっていかないので、若い世代が日本特有の美的感覚をある程度”漂白”し、世界に接続してほしいですね。

失敗よりも、不誠実を怖れよ。脆さに耐えうる”経験値思考”とは?

齋藤:お金の価値観にも通ずる話ですが、皆さんは失敗を怖いと感じることはありますか?僕は「怖くないです」と言い切りたいですが、やはり怖いです。ライゾマティクスには、長く勤めてくれている仲間がいます。彼らには家族がいますし、ローンもあるだろうし、簡単に失敗できないと思ってしまいます。

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赤川:もちろん葛藤はありますが、10年前と比較すれば、失敗が怖くない時代にはなっていると思います。経験がアセットとして評価される時代なので、打席に立ってバットを振った方が、失敗を恐れてバットを振らない人よりも得をする。

僕からすると、恐るべきは、失敗をするよりも不誠実でいること。「経験と失敗がアセットとして評価される」のは、何事にも誠実に向き合っているときのみです。現代は”リファラル社会”と言われるほど、個人の評判は流通して重要視されます。不誠実に過ごしていると、アセット云々の前に、その人の人間性で判断をされてしまいます。

吉田:リファラル社会を生き抜くポイントは、「経験値をいかに貯めるか」だと思っています。そうした視点で考えると、仮に失敗しても、それはそれで経験値が貯まります。むしろ、成功体験よりも大きな失敗をした方が経験値が得られるのではないかと思うほどです。僕は失敗か成功で考えず、経験値ベースで物事を判断していますね。

落合:僕は普段から失敗をしまくっていますよ。常に反省モードの人生を送っています。失敗は、ちゃんと反省したら良いだけです。

赤川:僕は『反脆弱性』という本が好きで、会社の組織テーマに”反脆い”を掲げています。”反脆い”とは、文字通り”脆い”の反対という意味で、「硬い」とも違います。通常、失敗の衝撃を受けることで組織は潰れてしまいますが、その失敗やトラブルを糧にさらに成長できる組織が、”反脆い”組織です。

人類史上長く続いているものの多くは、おおよそ反脆い性質を持っています。たとえば、ワクチンはちょっと異物を入れた方が耐性が強くなる考え方じゃないですか。失敗は必ず起こるものなので、失敗がむしろプラスになることを意識しています。望んで失敗するわけではないですが、「失敗を経験して強くなっていくぞ!」くらいの気持ちを持っていますね。

「これからは、”個”の時代がやってくる」

そんな言葉を初めて耳してから、早数年が経つ。そして事実、会社と個人のパワーバランスが崩壊していると感じることが増えた。テクノロジーによってエンパワメントされた—-つまり魂が解放されたことで、誰であっても会社に従属することなく、自分の意志次第で可能性と選択肢を自在に操ることができる時代が既に訪れている。

赤川氏の言葉を借りるのなら、”個”の時代とはつまり、「ロジックよりも意志が重要視される時代」だ。そんな時代に生まれた、お金や名声にプライオリティを持たない”僕ら世代”だからこそ、共に働くには理由が必要であり、共に夢を追うには正義が必要になる。吉田氏が指摘したように、「どのようにして仲間を募るかが、時代のキーワード」になっている。

シーズン4最終回を締めくくる今回のSENSORSサロン。次世代経営者たちの思考から見えたのは、新しい時代を生きる僕たちにも、正義が必要であることの示唆であったように思える。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一はお金よりも社会派!?ゲスト赤川隼一・吉田拓巳(次世代経営者 2/3))

構成:オバラミツフミ

1994、秋田出身。フリーライター → 長期インターンプラットフォーム「InfrA」を運営する株式会社Traimmu広報PR。構成『選ばれる条件』(木村直人・エザキヨシタカ 共著) アシスタント 『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文・落合陽一 共著)など。

Twitter:@ObaraMitsufumi

(2019-4-16 10:00:00)

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誰でもアバター、移動は無料。次世代経営者が創る"個"の時代–ミラティブ 赤川隼一×nommoc 吉田拓巳
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(左から)吉田拓巳氏、赤川隼一氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

国内外の広告賞にて多数の受賞歴を誇るトップクリエイター・齋藤精一、世界でもっとも注目される日本人研究者・落合陽一、海外にも根強いファンを持つ歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」を主宰する草野絵美—-各界を賑わす3名をMCに迎えたSENSORSサロン。

ゲーム、ロボット、評論、写真、建築など複数の領域を横断し、次世代のムーブメントを複眼的に捉えてきたシーズン4。シーズン最終回のテーマは、「次世代経営者」だ。ゲストには、総額35億円の大型資金調達を達成し、”NEXTメルカリ”として注目を集める企業ミラティブの代表・赤川隼一氏、若干23歳にしてこれまで数々のサービスで話題となり、最近では運賃無料の配車・運行サービスnommocをリリースして話題を集めた若手起業家・吉田拓巳氏の2名をお招きした。

前後編の2本立てでお届けする前編。「得意分野をテクノロジーと掛け合わせ、人々の可能性を広げていきたい」赤川氏と「時代の流れを汲み取り、常に新しいサービスをつくる」吉田氏は、サービス開発に至る経緯を熱く語った。クラウドファンディングの活用や副業社員の採用など、新しい組織の在り方を模索する二人は、個と組織のパワーバランスが逆転した時代にどのような思考のもと経営しているのか。次世代経営者が抱く思想について伺った。

草野絵美(以下、草野):今回SENSORSが注目したテーマは、「次世代経営者」です。若くして活躍する新世代経営者をゲストに招き、旧世代と新世代で異なる経営者の違いを深掘りしていきたいと思います。

落合陽一(以下、落合):僕はもう、「若手経営者」ではないかもしれないですね。

齋藤精一(以下、齋藤):まだまだ「若手経営者」ですよ。

落合:でも、僕が手がける領域は、主に”オールドエコノミー”です。クラウドファンデイングやビットコインで資金調達を行うなど、新しい方法論を実践していますが、それ自体を行わなくても成立する社会ではあります。

齋藤:僕もつくっているものは新しいですが、経営の方法や資金調達に関しては”オールドスクール”です。

スマホ一台で、魂解放。”ドラクエやっている感じ”で人類をつなぐ「Mirrativ」

草野:それではトークテーマ「次世代経営者」について、ディスカッションを始めます。まずは、赤川さんから自己紹介をお願いします。

赤川隼一(以下、赤川):スマホ一台でゲーム実況ができるサービス「Mirrativ」を運営する、ミラティブの赤川です。会社が掲げるミッションは「わかりあう願いをつなごう」。

私たちは”わかりあい”や”孤独”が、人類が持つ数少ない巨大な残課題のひとつだと思っています。人が持つ「わかってほしい」という気持ちをつないでいくことで、もっと多くの人が幸せな人生を送れるのではないか?と考え、ユーザーもメンバーも個々人の幸せを追求できるような会社経営を目指しています。

「Mirrativ」のコンセプトは、「友達ん家でドラクエやっている感じ。」です。僕や落合さんは、ドラクエがひとり用のゲームであるにも関わらず、友達の家で一緒にプレイしていた世代だと思います。コンテンツそのものを楽しむだけでなく、その場にいる友達と過ごす「空間そのもの」を楽しむ。その、「好きなもの同士でつながる」体験が、僕たちが言う”わかりあう願い”のつながりです。

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落合:言語化が難しい、感情の動きは重要だと思います。それこそ、赤川さんがよく言う”エモい”ですね。

赤川:現代は、ロジックよりも”意志”が重要視される時代。仕事も結局、やりたいことをいかにやれるかが大事だと思っているので。

例えば世の中には、歌が上手くても容姿に自信がない人がごまんといます。アバターとライブストリーミング・常時接続の掛け算で、そういった人の可能性や魂を解放させていきたいんです。以前は「ゲームが上手いだけでは飯が食えない」と言われていましたが、今ではゲーム実況でマネタイズができる時代。自分の得意分野をテクノロジーと掛け算することで、可能性を広げることをキーテーマとし、ここ1年会社を経営してきました。

落合陽一は「射程圏内」。時代の要請を反映した完全無料タクシー「nommoc」

草野:続いて吉田さん、自己紹介をお願いします。

吉田拓巳(以下、吉田):株式会社nommoc代表の吉田です。「こうなりたい」という固定化された”ありたい像”をつくらないことが、僕たちが経営するうえでの信念です。ものすごい速さで変化する時代の流れを汲み取り、いま自分たちがやるべきことを考え、常に新しいサービスをつくることを大事にしています。

直近で手がけたサービスは、誰もが無料で乗車できるタクシー「nommoc」。車両を配車するためにアプリをダウンロードしていただき、その際に取得した個人情報から、個々人に最適化したディスプレイ広告を乗車中に配信します。その広告費で、運送の運賃を賄う仕組みです。

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落合:タクシーに乗っていると、人材紹介とプロセスオートメーションの広告ばかりが配信されます。完全にターゲティングされていると感じますし、ずっと何かを語りかけられている気がしますね(笑)。

個と組織のパワーバランスが崩壊した現代に、会社ができること

草野:それでは、最初のトークテーマ「若手経営者にしかできない経営とは?」についてディスカッションを行います。吉田さんはクラウドファンディングによって資金調達を行なったとお伺いしていますが、詳細について教えていただけないでしょうか?

吉田:初回の資金調達を、クラウドファンディング形式で行いました。会社の株を少数公開し、購入者を募っています。結果的に、開始から4分半で5,000万円を調達できました。

なぜこのような形式を選んだのかというと、自分たちだけでサービスを開発するより、ユーザーを巻き込んだほうが”今っぽい”と感じたからです。スタートするタイミングで自分たちを応援してくれる方に投資家になっていただき、一緒に盛り上げてもらおうと考えました。そのほうが、ユーザーがサービスを「自分ごと」として感じられるので、成長しやすいと思っています。

落合:株式の購入が、節税の仕組みになればいいと思います。僕の研究室でクラウドファンディングをすると、支援者は実質的に「国立大学への寄付」をしているので、半額が返金されたりする。税法にハマる仕組みを考えられれば、社会を活性化する新たなパイプラインになると考えています。

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草野:赤川さんの会社は、正社員よりも副業社員が多いとお伺いしています。

赤川:意識してそうした組織づくりをしたわけではありませんが、フルタイムの正社員が25名いるのに対し、副業で手伝ってくれているメンバーが倍近くいます。スタートアップに転職するのは腰が重いと思いますが、副業として手伝ってほしいとお願いすると、優秀な人がたくさん参加してくれたんです。

副業が推奨され始め、優秀な人が成長機会を求めていますが、一方でその受け皿は多くありません。そうしたこともあってか、「優秀な人を最速で集める」ことを目指していたら、結果的に副業が多い現在の形になりました。

齋藤:副業推奨の機運がありますが、「働き方改革」を謳いながら、本当の意味で副業がワークしている企業はほとんど見たことがありません。僕は、副業を提供する企業が、参加してくれる人にしっかりペイできる仕組みを整えることが絶対的に必要だと思います。

関わった人みんなでコミュニティが形成されていかなければ、これから企業はダメになっていく。会社のあり方が問われる時代になっているのではないでしょうか。

吉田:「どのようにして仲間を募るか」は、時代のキーワードですよね。お金だけが重要な時代ではないですから。副業にオープンな会社の方が、つまるところ優秀な人材の集う会社になるかもしれません。

赤川:おっしゃる通りで、僕はもはや会社よりも個人が強い時代だと思っています。「採用」といっても、会社がやるべきなのは、ひたすら機会を提示し続け、選んでもらえる存在になることだけです。もう、ルールだけでは個人を惹きつけられない。なのでミラティブは、「機会を愚直に提示し続けなければ、転職して当然だよね」という前提で組織を運営しています。

続く後編では、「お金の扱い方」「日本が世界で勝てる領域」「失敗の乗り越え方」の3つをテーマに行われたトークの模様をお伝えする。赤川氏、吉田氏は共に「お金を第一に考えて経営をしていない」と語った。二人の思考に共通する共通する価値観とはどのようなものなのか?シーズン最終回を締めくくる、白熱の討論をお届けする。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(SENSORS|落合陽一がオススメするSXSW2019のコンテンツとは!?ゲスト赤川隼一・吉田拓巳(次世代経営者 1/3))

構成:オバラミツフミ

1994、秋田出身。フリーライター → 長期インターンプラットフォーム「InfrA」を運営する株式会社Traimmu広報PR。構成『選ばれる条件』(木村直人・エザキヨシタカ 共著) アシスタント 『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文・落合陽一 共著)など。

Twitter:@ObaraMitsufumi

(2019-4-9 10:00:00)

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戦略的思考で、アートとビジネスの接続に挑むーーRELISH 井澤 卓
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「どんなにセンスがあるアーティストでも、作品制作だけで生活できている人はほんの一握り。僕は自分の経験を活かして、そこを補完できると思ったんです。彼らが本当にやりたいことだけで食べていけるようにするのが、自分の役割だと考えています」

「アートとビジネスの接続」に挑む、若き起業家がいる。Yahoo! JAPAN、Googleでの営業職を経て独立し、昨年壁画制作チーム『RELISH』を立ち上げた井澤 卓氏だ。自ら制作を行うアーティストでもありながら、鋭いビジネス視点を持ち、RELISHを事業として成立させている。

なぜ井澤氏は、その価値が見えづらいアートを武器に、継続的な利益を生み出すことができているのだろうか。井澤氏へのインタビューから、その戦略と思考を探っていく。

「大事にされている」感覚を喚起。ポジティブなエネルギーを放つ、レタリング壁画の可能性

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井澤 卓氏

壁画とひとくちに言っても、ストリートのエネルギーを孕むグラフィティアートや、バンクシーのように社会風刺的アートなど、その種類はさまざまだ。RELISHが手がけるのは、文字を軸にした「レタリング壁画」。「文字のデザイン」における手法の1つであるカリグラフィーを用い、巨大な文字を描いている。井澤氏は、文字アートの最大の魅力は「嫌われにくいこと」だと言う。

井澤:文字って、みんなが日常的に触れているものだから、どんな人にも受け入れられやすいんです。抽象的なアートの場合、好みが分かれますが、文字は嫌われにくい。またそれだけでなく、みんなが「文字を書く」経験があるからこそ、精密なカリグラフィーを見た時に「すごい」と感じやすいと思っています。

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RELISHが手がけた、SUMMER SONIC会場でのレタリング壁画

さらに「手描き」のアートが空間にあると、そこにいる人たちは安心感を得られるのだという。

井澤:今の時代、デジタルツールでなんでも作れちゃうじゃないですか。たとえば床に貼る木目調のシートもそう。でも、そういうものから「ぬくもり」を感じることはできません。一方で、本物の木材を敷き詰めた床を見ると、なんだかほっこりしますよね。手間暇かけて、人の手が介されたものが身近にあると、そこにいる人たちは無意識に「大事にされている」と感じると思うんです。

レタリング壁画は、その制作に関わる人にもプラスのエネルギーをもたらすのだと、井澤氏は言う。未経験者でも取り組みやすいレタリング壁画の性質を活かし、RELISHでは、ユニークかつフレキシブルな組織体制を敷いている。コアメンバーである井澤氏とデザイナーの小泉遼氏以外は、案件ごとにメンバーを募っているのだ。

井澤:レタリング壁画はディレクションさえしっかり行えば、意外と未経験の人でも描けるんです。だから案件ごとに、友人知人から描きたい人を募っていて。「ペンキで描く」って子どもの遊びのようですごい楽しいんですよ。だから、関わってくれるメンバーの顔はすごくイキイキしていて…。RELISHオリジナルのアパレルも作っていて、制作時にはみんなでそれを着ています。スケーターのコミュニティのように、好きなことを軸にみんなで集うチームを作っていきたいんですよね。

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RELISHの制作風景。メンバーはオリジナルのつなぎを着用し、制作を行なっている

自分の手によって何かを創造する行為は、自信を与えてくれる。井澤氏はRELISH設立前の会社員時代、自らそれを実感したことで、次世代の生き方を提案したくなったと言う。

井澤:会社でいくら大きい仕事をしても、「自分の仕事」とは思えなかったんです。だから新卒2年目くらいから、レザー小物を作ってみたり、Webページの制作をしてみたりしていて…。とにかく個人活動としてできる何かを探していました。でも「何かやりたい」と思っていても、その一歩を踏み出せない人もいる。RELISHに関わることが、そういう人たちにとってのきっかけになればいいなと思っていて。もちろん、関わってくれたメンバーにはできる限り報酬を支払うようにしているので、楽しみながらできる「新しい副業」としてRELISHを利用してほしいと考えています。

アートをビジネスとして成立させるには?「オフィスイノベーション」に着目した、優れたビジネス感覚

空間創造が価値になるーーそう感じた井澤氏は、RELISHのメインターゲットとして、オフィスイノベーションに挑む企業を置いている。働き方改革が進む中、1日8時間以上を過ごすオフィスの在り方が見直されていることに注目したのだ。

井澤:オフィスの壁に、企業の掲げるビジョンやフィロソフィーをアートワークとして具現化することで、それを空間に浸透させることができると考えています。またオフィス作りに割かれる予算は、他のアートに比べて大きい傾向にある。結果として制作単価が上げられるため、アーティストとして壁画製作を事業として成り立たせられるんです。

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RELISHが壁画制作を手がけた東京発のクリエイティブエージェンシーmonopoのオフィスの壁。同社のミッション「Creative by Tokyo.」が壁一面に描かれている。

RELISHで手がける壁画制作の多くは、井澤氏が自ら企業担当者と話し、獲得しているものだ。RELISHは「下請け業者」としてではなく、企業と対等な立場に立ち、作品を提供している。その成功要因は「価値の言語化」と「戦略的思考」だと井澤氏は言う。

井澤:作品の価値や、提案するデザインの背景を明確に言語化することが重要だと考えています。言葉で価値を説明すれば、作品に対するリスペクトや、デザインへの理解も得られますから。

さらに、その価値を「どこに提供するか」も重要です。そのために必要なのは、世の中の動きに目を向けて、社会的ニーズを見出すこと。そこに対して明確な価値を提供することができれば、ビジネスを作ることができるんです。何も考えずに好きなものを作って、勝手に売れていくことはほとんどない。そうした戦略的思考を持って制作をしていかないと、アート制作を事業にすることは難しいと思います。

新時代におけるオフィス空間の価値に目を向け、レタリング壁画で企業の課題解決を行うことを見出した井澤氏。その戦略的思考は、独立以前に在籍していたGoogleの新規営業チームで磨かれたものだと、井澤氏は言う。

井澤:提案先に初めて会う際に、自分たちが提供する価値を可能な限り高めるため、相手先企業の競合状況もリサーチした上で「御社は今、こんな課題を抱えていますよね」と仮説をぶつけていました。仮説が間違っていてもいいんです。大事なのは、自分なりの意見を持ってお客さんと対峙すること。まずは自分の仮説をぶつけて、本当の課題を引き出すイメージです。そのために、業界分析や仮説構築を徹底的に追求していたので、Googleにいた3年間で、ビジネスマンとしてのスキルが非常に磨かれたと思います。

実は井澤氏は、Google在籍当時にRELISHの前身とも言えるチョークアートユニット「Paint & Supply」としての活動も始めている。Googleでの学びを活かし、企業や商業施設での大型案件を請負い、収益を上げてきた。

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Paint & Supplyでの制作風景

優秀なビジネスパーソンでありながらも、自ら現場に立つアーティストとしての経験を持っているのだ。だからこそ、アーティストへのリスペクトを払い、彼らのサポートがしていきたいのだと井澤氏は言う。

井澤:実はRELISHは、アーティストである小泉さんとの出会いがきっかけで設立したものです。彼は高いセンスを持っているのに、作品制作だけで食べていくことが難しいと話していて。僕は自分の持つビジネススキルを活かして、彼のようなアーティストのサポートをしていきたいと思ったんです。アーティストが、本当にやりたいことで食べていけるようにするのが、自分の役割だと考えています。

夢に向かって戦略を描く。「ショーケース」としてお店を作る理由

学生時代から「30歳までには独立し、空間プロデュース業を行いたい」と決めていた井澤氏にとって、RELISHでの壁画制作は、活動の一部でしかない。空間プロデューサーとして、仕事を請け負っていくために、井澤氏は新たな戦略を描いている。

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井澤:「自分たちはこんなことができます」と言える場所を作りたくて。。そのために、この春池尻大橋にお店をオープンさせるんです。お店として利益をあげることも重要ですが「空間のショーケース」として、機能させていきたいんですよね。「良い空間」って実際に体感してみないとわからないし、空間創造にはある程度のセンスや知識が求められるじゃないですか。だからこそ、自分好みの空間を作れる人に、空間プロデュースをお願いすべきだと思うんです。お店に来てくれた人がその空間に魅力を感じて「うちのもお願い」と言ってくれるようになったら、嬉しいですね。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。

Twitter:@azuuuta0630

編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。

Twitter:@masakik512

(2019-4-2 18:00:00)